私たちの新しいレストランのこと。(前編)
2017.10.03

カリフォルニアのオーガニックレストランの先がけとして知られるシェパニーズで料理長もつとめたジェロームさんと、目黒の人気レストランBEARDのオーナーシェフの原川さんが、神田神保町周辺でお店を探している。 そんな噂を聞いたのが昨年末のこと。そんなお二人のプロジェクトがいよいよ具体的に動きだしたとお聞きし、早速お二人に新しいレストランについて、神田とのなれそめ、そして二人が共同で立ち上げた会社についてお話をうかがった。

素材を通して食のストーリーを伝える

原川:お店探しに関しては、神田錦町界隈で探していたのですが、なかなかいい出合いがなくて。 それである日、不定期でお店をやっている時に、閉店後にヘトヘトになってそれでもお店に来てくれた友人に、いま店舗物件を探していると話したことがはじまりでした。 それでずーっと神田神保町あたりで探しているんだけどと言ったら、実はと神田の物件を紹介してもらいました。それが昨年末の頃の話です。

ジェローム:界隈には神田という地名が入ったまちがいくつかありますが、どこまでを神田というのですか?

ー テラススクエアやFUSION_Nがあるエリアも神田といいますし、九段下の下のほうや、神田駅周辺はもちろん、神田明神のあたりも含め、かなり広いエリアをいまでも神田と言っています。

ジェローム:神田神保町といえば古書のまちという印象がありますが、人によって神田のイメージはさまざまで、その多様な感じが面白いですね。

ー 本当にそうですね。原川さんにお聞きしたいのですが、これまで目黒で人気店を運営されていた原川さんの新しいお店がなぜ神田だったのでしょうか?

原川:それはもうこの方が東京のなかでもこのエリアに惚れ込んだからです(笑)。

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

ジェローム:伝統的な江戸の文化が根付いている神田神保町が好きだからです。神田エリアは外国人である私からみて東京の中心ですし、日本橋、浅草、人形町といった、東京のなかでも私が大好きなまちとも隣接しています。 古書と歴史のまちの魅力もそうですが、本郷といった学問の聖地にも近いのも魅力です。私は本や伝統にとても興味があるのです。 本は言葉でストーリーを伝えますが、私たちは、「江戸」から続く歴史と伝統があるこのまちから、食の担い手である農家さんや漁師さんたちとともに、食べものを通じて普遍的な食のストーリーを伝えたいと思いました。

ー 歴史の積み重ねがあるエリアですので、そこに着目したというお話はすごく腑に落ちました。原川さんはいかがですか?

原川:僕は静岡生まれで、学生の頃から東京といえば、代官山、裏原宿でした(笑)。独立して最初のお店も目黒で始めましたので、東京の東側にはこれまでまったく縁がありませんでした。 そういった意味では生活圏内ではありませんでしたので、ジェロームがここでお店をやりたいと言ったときも、正直イメージがしづらかったです。 でもジェロームは日本に来た当初から、東京に住むなら谷根千に住みたいと言っていましたし、まち歩きが好きだったみたいで、東京の下町にすごく詳しくて。僕にとってはどこ?って感じだったのですが、鳥越がすごくいいんだよとか言っていました。

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

ー 渋いですね。

原川:はい。でもあえていうなら、僕がお世話になっているレストランのシェフが浅草のかたで、毎年三社祭で神輿を担いでいました。 僕自身、歴史、文化、風情を感じるのは昔から好きで、お祭りも大好きです。実は5年ほど前から三社祭にそっと混ぜてもらっています(笑)。 ですが、お店をやるとなると、自分にとってやりやすい環境を選んでしまいます。それが僕にとっては東京の西側でした。だから、ジェロームから神田神保町でお店をやりたいと聞いたときは、遠いなあと思いました(笑)。 いまも目黒にあった自分のお店の近くに住んでいるので、どうやって通うんだと思いましたし、実際にこっちで物件を探し初めてからも、半分ないなあとか思いっていました(笑)。 目黒のほうだとコンクリートっぽい建物が多いのですが、こっちにはまちの歴史を感じることができる建物がたくさんあって、だんだんいいなあと思いはじめてからは、テンションがあがりはじめました。 昔からある和菓子屋さんがたくさんあったり、人の感じも違いますし、東京ローカルの人たちがまだまだたくさんいて、僕らがいまやろうとしていることを始めるにはピッタリな場所なんじゃないかと思いました。 いまは面白いことが起こるんじゃないかという期待しかありません。

ー 日本の伝統食は神田、浅草、日本橋、銀座にあることが多いですよね。

ジェローム:それと人形町もね(笑)。人形町も本当に好きなんですよね。

ー ほんと、お詳しいですね。お二人が食でやろうとされている、素材に向き合うということは食にとって極めてベーシックなことですが、その切り口はものすごくあたらしいように思います。

原川:その点は、彼がシェパニーズで長年やってきた、カリフォルニアという土地で根付いてきた、ヒッピーたちのファーマーズカルチャー、そして日本の禅にも通じる考え方がベースにあると思います。

ジェローム:私が働いていたシェパニーズやカリフォルニアの友達の料理人たちは、地産地消やオーガニックな食に、フォーカスしていました。 そのもともとのきっかけは、カリフォルニアで農業をやっている日本人で、元お坊さんの影響がものすごく影響を与えています。 シェパニーズにはイタリアン、フレンチなどさまざまな要素がありますが、日本料理の懐石料理や精進料理、旬の食材をいかした和食など、日本の人たちがもともともっていた食に対するシンプルな考え方に本当に影響を受けているのです。 和食は世界遺産に登録されましたが、その定義に、旬のもの、伝統文化を大切にしながらシンプルに食べると書いてありました。それってとてもいいことだけど、みんな忘れていますよね。 私自身の料理家としての哲学では、それをあらためて見直したいと思っています。ここ神田で、和食の定義をもとにあたらしいお店をやりたいと思っているのです。

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

自然に歩み寄り旬のものを食べる

原川:ぼくたちの新しいお店のコンセプトは、自然にもっと歩み寄って、旬のものを食べるという、極めてシンプルなことです 。それを繋いでくれるのは食物の生産者である、農家さんや漁師さんという存在です。自然に歩み寄って農業をしている農家さんたちを、僕達がそれを調理し食べることを通じてサポートしていきたいと思っています。 それを先ほどジェロームが言ったように、東京の文化を担ってきた場所のひとつである、神田というまちでやりたいと思っています。 そして、いまの神田といえばもうひとつ、日本のサラリーマンの方たちのある意味中心のような居酒屋さんがたくさんあるような場所で、このような提案がどれだけ伝わっていくのか興味があります。

ジェローム:私達が神田でやろうとしているのは、伝統的な和食文化を再解釈して、いまの時代に私たちらしいかたちで提案することです。 愛媛の福岡正信さんという自然農法の提唱者の方の「自然農法・わら一本の革命」という言葉があり、カリフォルニアの有機農法をしているファーマーたちにとても影響を与えています。 いまカリフォルニアの意識ある人たちにはオーガニック志向がとても強いのですが、実は日本の文化やカルチャーの影響がとても強いのです。

ー さまざま食の経歴があり、ビアードという人気店のオーナーシェフであった原川さんが、なぜこのタイミングでジェロームさんと一緒にやろうと思われてのでしょうか?

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

原川:僕はもともとフランスでも日本でもフレンチのレストランで修行してきましたので料理としてはフランス漬けでした。 6年ほど前にジェロームがオープンハーベストというプロジェクトで来日したときに、料理家で友人でもある野村友里さんからよかったら手伝いにおいでとお声がけいただきました。 その時にジェロームやシェパニーズのことを知りました。その出会いがきっかけで、毎年夏にシェパニーズにインターンに行かせていただくようになりました。そこでシェパニーズやジェロームの料理に対する考え方を学ばせていただきました。 ジェロームもそれ以来、毎年日本に来るようになり、そのたびごとに国内の産地巡りを一緒にしました。 そして彼の話しを聞いていくなかで、ここ日本である意味産業化された食べ物ではなく、もっと自然なかたちでの食のあり方を提案するレストランができないだろうかと思うようになっていきました。 彼は料理に対して、アイデアや思想があって、とても学ぶことがありました。 それで彼がシェパニーズを辞めるならいま、というタイミングがあり、それで独立してお店をやるならカリフォルニアはたくさんレストランがあるし面白くない、東京はどう?と彼から相談されました。 もちろん東京にもいいレストランはたくさんありますが、彼のような考え方でやっている人は僕の知る限りありませんでした。それで、ジェロームが本気でやるなら僕もお店を辞めるから一緒にやろうということになりました。

ジェローム:そうでしたね。私も、慎一郎、東京で一緒にやろうと返事をしました。

原川:じゃあ僕もビアード辞めるよと(笑)。

ー そうでしたか。

ジェローム:まさにハプニングでしたね(笑)。

〜来週公開の後編では、お二人の食をめぐる取り組みについて新しいお店について、さらに詳しくお話を伺います。お楽しみに。

撮影協力:FUSION_N

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