私たちの新しいレストランのこと。(後編)
2017.10.11

カリフォルニアのオーガニックレストランの先がけとして知られるシェパニーズで料理長もつとめたジェロームさんと、目黒の人気レストランBEARDのオーナーシェフだった原川さん。その二人のレストランが神田駅近くに12月頃にオープン予定。そんなお二人のインタヴュー後編は、食を通じてこれからやりたいこと、ニッポンの食をめぐる環境のこと、気になる新しいお店についてお話をうかがった。

二人のあたらしい会社

ー ジェロームさんは、これまでのご自身の人生のなかで日本でレストランを開くことを考えたことはありましたか?

ジェローム:実はかなり以前のことになるのですが、日本の田舎の片隅でレストランをやる夢をみたことがあるんですよ。そのお店の内装はすべて漆でできていて、キャンドルが灯っていたことも覚えています。

原川:お地方再生や伝統的な価値の見直しもそうですが、外からもたらされる新しい視点って大事ですよね。僕も静岡から上京してきて、20年ほどになりますが、目黒界隈で完結していて、どこか考え方が固定化してきていた部分があったように思います。東京の新たな魅力という意味では、ジェロームに気づかせてもらったことで一気に広がっていきました。人生って面白いですよね。

原川:今回RichSoil&Coという会社を、ジェロームとフィフティ・フィフティで立ち上げました。今後は二人で会社としてやっていきます。

ジェローム:会社にしたのには大きなビジョンがありました。それは「日本を100%オーガニックにする」というものです。リッチソイルという言葉通りなのですが、要するに多様性をおもんじて、豊かな土壌をつくりましょう、ということです。会社として多様な環境で、農家の方や漁師の方、たくさんの人と関わっていきたいと思っています。なぜなら、料理は美味しい野菜をつくってくれる農家や漁師の方が不可欠だからです。
それと同時に地球上の人類として自然がなければ生きていけないことを再認識して、あらためて人間として自然を見つめ直そう、そして私たちはそれを食を通して伝えていきたいと思っています。自然がもっている力は偉大です。そしてわずかかもしれませんが私たち人間が関与して育んできた部分もあると私は思っています。逆にいうと、これから自然を活かすも壊すも私たちにかかっています。ですので私たちの小さな活動を通じて自然に歩み寄ることで、豊かな環境を少しずつでも取り戻せるかもしれない、ということを伝えていきたいと思っています。それができれば、人間だけでなく、植物や動物、しいては環境全体に大きな良い影響を与えていけるのではないでしょうか。

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

ー そこで大切になってくるのが、共感や理解をもとにしたコミュニケーションなのかなあと思いました。

ジェローム:コミュニケーション、そうですね。さらにいうとエデュケーション、教育も重要ですね。江戸の歴史もそうですが、自分たちが信じる文化を受け継ぐと同時に、学び伝えていくことが大切ですよね。食べ物ができていく、一連のプロセスを学びを想定しながらみせていくオープンキッチンスタイルにすることもそうですが、コミュニケーションは次のお店でもとても重視しています。

ー 確かに教育が重要になってきそうですね。私たちの当たり前な日常では、意識しなければ、どうしても目の前にあるインスタントで簡単な食べ物についつい手を伸ばしてしまいがちです。教育をしていくためには何が大切だとお考えですか?

原川:たしかに、ストイックすぎるのも僕達らしくはありません。食べることは喜びですから、あくまで楽しく伝えていけたらと思っています。押し付けがましくなく、とにかく楽しいレストランにしていきたいです。

ジェローム:自分たちがやろうとしていることが絶対的に正しいことなのかどうかはわかりませんが、新しい場所でチャレンジできることにわくわくしていますし、とても楽しみにしています。

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

日本の食をめぐる環境を知る旅を通じて

ー お二人で日本各地を食材巡りの旅をされているそうですが、もうどのくらい回わられたのですか?

原川:二人で北の方から、北海道は旭川、帯広、洞爺や函館に始まり、宮城、千葉、長野、神奈川、埼玉、京都、岐阜、兵庫、愛媛、徳島、高知、香川、熊本、鹿児島などに行きました。僕は福岡、鳥取、山梨にも行きました。まだまだ行ってないところがたくさんあります。たくさんの方とつながっていけたらいいなあと思っています。

ー 新しいお店のお料理はどのようなものになるのですか?

原川:料理に関してはジェロームがリードしていますので、シェパニーズのスタイルがベースになります。僕がビアードでやっていたのも、シェパニーズのスタイルを踏襲したものですので、ビアードのお客様にも、さらにビジョンをもった料理を提供できると思います。でもスタイルにとらわれない自由なものになると思います。

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

ー それは楽しみですね。日本では自然栽培や有機栽培の農家さんは小さな規模でやられている方が多いと思うのですが、そのような生産者の方のものづくりを支え、経済的な部分でもサポートするために、今後多店舗化など考えていることはありますか?

原川:会社にした理由もそこにあります。ただレストランをするだけではなく、大きな意味で「日本を100%オーガニックにする」という目標を掲げていますので、生産者の方同士を全国でどう繋げていくかを考えています。それと教育の面も、現状の問題や課題をあぶり出しながら、自分たちでできることを模索しています。もちろんそれは僕たち二人だけではできませんので、システムも含めていろいろ考えている最中です

ー もう新しいレストランの名前も決まっているんですよね?

ジェローム:はい。神田にできる私たちの新しいお店の名前は「the Blind Donkey」です。

ジェローム・ワーグさん、原川慎一郎さんインタビュー

ー どんな意味がある言葉なのですか?

ジェローム:私が過去に読んだ、日本の和尚さんである一休さんの本の中に出てきた言葉です。まさに、「the Blind Donkey」って何?ということもとんちのようで面白いですし、言葉の響きも気に入っています。

原川僕もその言葉について少し調べたのですが、禅宗の世界で瞎驢眼(カツロゲン)という言葉があるようで、師匠が未熟な弟子に対して喝を入れるために使われていたとか、一休さんがいろんな意味をこめて、ある集いの場所を瞎驢眼と名付けたとか、それにまつわる話がいくつかあるようです。ジェロームはカリフォルニアでは、禅寺で二年ほど修行したことがあるくらい、禅に興味があって、そこで出合った言葉だそうです。ですので店名である「the Blind Donkey」にも、人間はいくつになっても未熟者であるということや、未熟だからこそ謙虚でいましょうという解釈を込めています。僕達のお店もそんな学びの場ようになったらいいなあとも思っています。

ジェローム:盲目のロバのように、私自身も何も分からない日本に来て、この場所の空気のなかにあるルールや文化の違いに触れています。いままさに自分自身がブラインド・ドンキーのように感じていますので、ちょうどピッタリな名前だと思っています。

ー 「the Blind Donkey」はいつオープン予定ですか?

ジェローム:そうですね、2017年12月頃にしましょう。

原川いま初めて聞きましたね(笑)12月頃を目指して行きたいですね。

撮影協力:FUSION_N

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