松の写真、「Plenum」について
ー Kanocoさん、今回の清永さんの松の写真はどこで撮ったものかわかりますか?
Kanoco:う〜ん、皇居ですか?
清永:当たりです。
Kanoco:でも、あの場所って、もっといろんなものがある印象があります。
清永:なかに入ると松しかない空間が広がっているんですよね。
Kanoco:皇居と答えましたが、聞かれなかったらわからなかったかもしれません。
清永:これが全部、夜に撮ったものだって分かりますか?
Kanoco:夜かなとは思いました。
清永:人によっては蒼い空が昼間だと思う人もいたようです
Kanoco:松に照明はあたっているんですか?
清永:いや、街灯だけです。今回の作品は夜の皇居を撮ったものですが、もともと街灯のもとにある夜の植物をテーマに作品を撮っていました。それとは別に神話の舞台になったり、神社、巨石が祀られている場所といった、人の信仰が集まる場所に行き、風景を撮るという作品を制作していました。
Kanoco:なぜそういう場所に行くのですか?
清永:自分にとって神々しさを感じる場所、ほかの場所では感じないような「気配」を感じる場所に興味があります。目には見えない何かを感じる場所に行き、その何かを写真ですくい取りたいという思いがあります。写真だと形に現わすことができるんじゃないかと思って撮っています。
Kanoco:タイトルにはどんな意味があるのですか?
清永:その「感じたもの」を表す言葉はないかなとずっと探していました。何年か前に神社に行ったときに、ものすごく広くて何もない場所なんだけど、澄んだ何かに辺り一面を満たされているように感じたことがありました。そういう感覚をあらわす言葉を辞書をあたって見つけたのが「Plenum」という言葉でした。
Kanoco:聞きなれない難しそうな言葉ですね。
清永:抽象的な言葉ですよね。物理の分野などで使われている言葉のようです。
Kanoco:神社とかお寺に行くと、たしかにそのような感覚をもつことがあります。あと海でも。
清永:神社に限らず特殊な感覚を抱かせる場所って、人それぞれあると思いますが、僕にとっては皇居前広場もそういった場所のひとつでした。その感覚は昼間に撮影していても感じるものですが、夜に行くとさらに研ぎ澄まされて感じられて、それで夜の皇居前広場を撮るようになりました。
Kanoco:昼間は多くの人たちがランニングをしている場所ですよね。でも、いつも車で素通りしてしまいます。
清永:昼間は昼間で清々しさを感じられる場所ですけど、夜、人がいなくなると空気が変わるんですよ。
Kanoco:写真はデジタルですか?
清永:大判のフィルムカメラで撮影しています。4×5というサイズで、三脚に乗せて一枚一枚フィルムを入れ替えながら撮るカメラです。フィルム面が大きいので一般的な35mm版のものよりも解像度の高い写真を撮ることができます。
(展示されている額の傾きを直す清永氏)
Kanoco:いまの、清永さんぽいです。
清永:そう?こじらせ系だよね(笑)
Kanoco:夜の何時くらいに撮影しているのですか?
清永:夜の10時くらいにいって、誰もいない場所を探して、三脚にカメラをセットして1分から3分、長時間露光で撮影しています。撮影期間は1ヶ月に1度くらい、たまに行って3年くらいかけて撮影しました。雲が風に流れている様子も写っていると思います。長時間露光で撮ると、暗がりのなかの肉眼では見えないものまで写って、普段見ている風景とは違う感じの写真になるのも面白いと思っています。
Kanoco:夜遅くに一人で撮影する姿を想像すると少し怪しいですね(笑)。松の盆栽をやっているのですが、いくつか枯らしてしまっていて。
清永:盆栽!シブいですね。松の盆栽って難しそうですね。
Kanoco:家を不在にすることも多いので、植物を育てるのはなかなか難しいですね。清永さんは松のどんなところに惹かれて写真を撮っているんですか?
清永:やっぱり形かな。あとは揺れないところ。
Kanoco:私は松のアンバランスな感じが好きですね。
写真を撮るというコミュニケーション
ー 清永さんはKanocoさんをよく撮られていますが、被写体としてのKanocoさんにはどのような印象をお持ちですか?
清永:本人を目の前にして話しづらいですね(笑)。仕事がすごくやりやすい人です。でも撮影と同時にスイッチが入るタイプではないよね?
Kanoco:なんかスイッチ入れるのが恥ずかしいんですよ(笑)
清永:わかりますよ。でもKanocoちゃんは、空間にすっとなじんで、空気としてまるごとその場をつくる力があるから、撮る方としてはとてもやりやすいんですよ。だから、シャッターを押すだけでいい画になっちゃうというか。言葉はあれだけど、撮っていてとても楽させてもらえちゃう方ですね。
Kanoco:ファッション誌はキメるべきところではキメることがいいと思うんですけど、OZmagazineは情報誌ですのでその場の空気を伝えることが大切だと思っています。
清永:その空気の読み取り方というのは、その人ならではの感性だと思うんですよね。
Kanoco:でも、最近はどんな媒体であってもモデルとして起用させていただいている以上キメなきゃとは思っているんです。中途半端な顔になるのは嫌だなと思っています。私、ゆるい顔が多くないですか?
清永:いや、Kanocoちゃんはそれがいいんだと思うよ。
Kanoco:そうですか?ありがとうございます。その場で感じたことを、素直に表情に出せればいいのになあといつも思います。
ー 写真家としての清永さんの今回の作品をご覧になっていかがですか?
Kanoco:普段雑誌のお仕事で清永さんに撮っていただいていますが、いつもの清永さんの雰囲気とは違いますが、とても清永さんらしい作品だと思いました。貴重面でストイックな、お腹いっぱいにしない清永さんの感じが作品からも伝わってきます。今回の作品には人が一切映っていませんが、プライベートで人の撮影はしますか?
清永:多分、放っておいたら、自然や人のいない方にいっちゃうと思うけど、結果としてそれは社会人として駄目な方にいってしまうと思う(笑)。だからKanocoちゃんとか人を撮ることが僕には必要なんです。
ー この作品を撮っている時の清永さんは、真っ暗な皇居前広場で大きなカメラを前に黒い膜を被って1時間くらいじっとしているんですよね。
Kanoco:その姿撮りたいですね(笑)。注意されたりはしないんですか?
清永:怪しいことをしているわけではないし、公園だから結構大丈夫です。警察の人も巡回していますが、なに撮っているの?と聞かれて、松ですと答えると頑張ってねとか言われて、あとは放っておいてくれます。みんな優しいですよ。とことん一人になれてリラックスして撮影ができる心地よい場所です。対して人の撮影は感情の動きがとても大きいですよね。たとえばいい表情をしてもらえたり、その人の美しさを引き出すことができたりした時は、そこに親密なコミュニケーションが感じられて、喜びも大きいですよね。
Kanoco:そうなんですよ!人を撮ることにはものすごい充足感がありますよね。私も写真を撮ることがものすごく好きで、人を撮りたいという気持ちはものすごくあるのですが、なにせ人見知りで人にカメラを向けられないんですよ。だから親しい人の写真しか撮れないんです。
清永:でも、写真ってそれでいいんじゃない?
Kanoco:それはそうなんですけど、やっぱり人を撮ったほうが喜びはありますよね。
清永:そうだよね。わかります。写真ってそういった意味ではパーソナルなもので、仕事で撮ることは別として、興味があるものを撮ることで写真家の目線って形成されていくと思う。撮りたい人、好きな人を撮るだけで完結してもいいんじゃないかなとは思うけど。
Kanoco:でもこの仕事をしているとまわりに素敵なモデルさんがたくさんいて、その人たちを撮りたいなとものすごく思うわけですよ(笑)。でも撮れないという。
清永:そっか。
Kanoco:そんな自分にいつももどかしい思いをしています。
清永:一度思いきって撮ってみたら?
Kanoco:人の前にカメラをもって立つじゃないですか?カメラ向けたらすぐ撮らなきゃと思ってしまって。
清永:まず相手の気持ちを考えちゃうんだね。それは普段自分が撮られているからそう思うんだよね。
Kanoco:昨日、自分が撮った写真を見返してみたら、本当に家族以外の人が映っていなくて。
清永:さっきカメラを向けるのが恥ずかしいってKanocoちゃんは言ってたけど、僕の場合はもっと人見知りなのかもしれない。カメラを持つことでやっと人の前に出て行くことが出来るのであって、むしろKanocoちゃんの方が対峙していると思いますよ。僕にとってカメラはそういった意味でも、人とコミュニケーションをとる為の大切なツールだと思います。
次週公開の後編では、写真の楽しみ、道具としてのカメラについて、お二人のお仕事についてなど、さらに深くうかがいます。
<後編に続く>
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