ここではないどこかへ連れていってくれる歌声(前編)
2017.12.14

どこかノスタルジックなメロディ、心にこだまする繊細なうたごえ。コトリンゴさんのつくり出す歌は、今という時代をやさしく癒やしてくれているように感じる。先日神田錦町で行われた音楽イベント、「OUR MUSIC FESTIVAL」でもピアノの演奏とともにその歌声を披露してくれたコトリンゴさん。その音楽が生まれてくる「場所」について、話をうかがった。

音が生まれてくる風景

ー 今回のOUR MUSIC FESTIVAL出演の経緯を教えてください。

ミュージシャンで音楽プロデューサーの坂口修一郎さんにお誘いいただいたのがきっかけです。坂口さんとはほかのイベントでもご一緒させていただいたことがあります。

ー コトリンゴさんが音楽をはじめたきっかけを教えてください。

幼稚園のころになりますが、年長さんになるとまわりの友だちがピアノをはじめる子が多くなって、それで私もやりたいと思ったのがきっかけでした。それで叔母の家に使ってないピアノがあって、それを譲ってもらってピアノをはじめました。

ー とても幼い頃から音楽を始められているのですね。

はい。それで私が通っていた音楽教室がオリジナル曲をつくるというカリキュラムや発表会を盛んにやっている教室で、それでそのころからオリジナル曲をつくりはじめました。

ー 最初からピアノだったのですか?

通っていたのはヤマハの音楽教室で、当時はエレクトーンでアンサンブルをやったり、楽器はいろいろでした。

ー 最近も映画のサントラなどでビッグバンドのジャズに取り組まれたりされていますが、当時からさまざまなジャンルの音楽を学ばれていたのですね。コトリンゴさんの曲作りのインスピレーションを教えてください。

お仕事だと、たとえば映画の場合でしたら映像や物語などテーマが決まっていますので、それがきっかけになることもあります。自分の楽曲でしたら、つくり出したいイメージや、曲のテンポ感、表現したい雰囲気など、そういったものをたぐり寄せながら曲をつくっていきます。

ー コトリンゴさんの音楽が生まれてくる原風景とはどのようなものでしょうか?

難しい質問ですね…。音楽をつくる「よりどころ」というか、固定したイメージはないのですが、私はピアノが一番付き合いが長い楽器ですし、曲をつくるときに最初に触れるのがピアノです。だから「ピアノの音」がある種の私の音楽の原風景になっているのかもしれません。ときどき、ピアノで音楽をつくるということ自体に制約ができているので、ピアノから離れてみたいと思うときもあります。それくらい私の音楽にとってピアノは切っても切り離せないものになっています。

コトリンゴさんインタヴュー

ピアノと奏でる心に響くメロディ

ー ピアノはあらためて考えると不思議で、魅力的な楽器ですよね。人の両手が届く範囲の鍵盤の中で多様な音楽が生まれてきます。

そうですね。小さい時から先生に言われていて、最近実感しているのが、ピアノは一般的なオーケストラで使われる楽器の音域をほとんどカバーしているので、曲を弾く時にいろんな楽器を思い浮かべながら弾いてごらん、と言われていたことでした。当時はそれがピンとこなくって。

ー それはバイオリンならバイオリン、トロンボーンならトロンボーンというように、メロディを奏でる具体的な楽器を思い浮かべて演奏する、ということでしょうか?

はい。ピアノでメロディを弾く時にクラリネットの甘い音でとか、そういう違う楽器のイメージを思い浮かべ、その音色を膨らませて音にして表現してごらんといわれていました。最近オーケストラと一緒にやらせていただくようになって、アレンジを手がける際に、あの時先生が言っていたのはこういうことなんだと思いました。さまざまな音楽を実際に表現するようになって、いろんな楽器の音色の魅力にも気づけましたし、ピアノってすごく音域が広くて表現力がすごい楽器なんだとあらためて思いました。

ー 昔の大作曲家たちはピアノ一台で壮大な曲をつくったわけですからね。

ピアノでつくった曲がオーケストラになったりというのもそういうことですよね。あらためてピアノという楽器は興味深いなあと思いました。

ー 音楽に関して、これまで印象に残っていることを教えてください。

たくさんあるのですが、最近では、ヴィニシウス・カントゥアリアというブラジルの歌手の方がとても好きでよく聴いています。声がとても繊細で囁く感じで歌うのですが、私が観に行ったのはビル・フリゼールとのデュオのコンサートでした。ヴィニシウス・カントゥアリアさんはとても繊細な声でありながら、表現力があってそれがものすごく印象に残っています。基準となる声量もそれほど大きくないのですが、表現の手法として、さらにそこからボリュームを下げたり。自分がもっているもので多彩なものをつくるという、その表現力に魅了され、とても感動しました。私もそのように出来たらいいなと思っています。

次週公開の後編では、その歌声の秘密について、「OUR MUSIC FESTIVAL 2017」、新作についてなどお話を伺います。

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