誰も第一線を走らない時代を生きる。(後編)
2018.5.17

これからの活躍が期待される若手アーティストへのインタヴュー企画。第一回目は、フォトグラファーの青木柊野くんと、音楽家、モデルとしても活動する岡崎圭吾くんとの鼎談です。その後編では彼らが目指すこれからのこと、アートについて、東京で暮らすこと、そして生き方についてなど、じっくりお話を伺います。

ー 圭吾くんはこれからどんなことにチャレンジしていきたい?

岡崎:僕は別にモデルや音楽がやりたいわけでもお金持ちになりたいわけでもなくて、些細な日常に気づける人になりたいです。たとえば、一緒に暮らしている青木の優しさに気づけているか?とか、これまで仕事でお世話になった人に対して自分が何が出来るか、実際何をしてこられたのかを考えます。

ー 実際何ができると思う?

岡崎:自分は昔から音楽が好きでこれまでもやってきたので、お世話になった人たちに音楽で恩返しをできるようになりたいと思っています。それと、人として優しい人間になりたいというのが一番のこころざしです。その手段が音楽で、この間の展示も音楽でみんなにありがとう、という気持ちを伝えたいからやりました。 それが本当の意味での「アート」かなと思いながら試みていますし、それが今一番面白いからやっています。それと、アートという意味では青木の作品が一番好きですね。

青木柊野氏、岡崎圭吾氏インタヴュー Syuya Aoki

ー それは楽しみですね。青木くんにとって写真とは?

青木:写真にしても絵画にしても言葉にしても人それぞれ伝えたいものが自分の中にあると思うんですけど、それを僕は写真という形で表現しています。とにかく写真自体に興味がありますね。もっと深く写真を掘っていきたいです。僕は単純に写真が好きなんです。究極的には自分が撮らなくてもいいですし。スマホで簡単に写真が取れたり、インスタグラムでシェアしたり、写真との距離が近い今の時代、どう写真と関わっていくのか、自分でも楽しみです。僕ではない作家の写真集を編集することもしてみたいですね。

岡崎:今僕はモデルや音楽をやりながらアパレルで働いているんですけど、服にしても写真にしても音楽にしても、何かが生まれる瞬間を知っていることはすごい強みになっていると思います。

ー 圭吾くんは音楽はどこかで学んだの?

岡崎:いえ、すべて自己流です。僕はキーボードをやっているんですが、弾けば誰でもできます。今使っているローランドはめちゃくちゃ気に入っていて、坂本龍一さんが使っているのと同じものです。今は全然お金がないですけど、会社員時代に買いました。

青木柊野氏、岡崎圭吾氏インタヴュー

ー 好きな音楽は?

岡崎:基本なんでも好きなのですが、特に好きなのは荒井由実とハイ・ファイ・セットです。

ー 圭吾くんはどんな音楽表現をしたいですか?

岡崎:僕は音楽の専門的な勉強はしていませんが、リズム、テンポ、キー、それらが混じり合って、自分が感じるそのままを音に出せるのが音楽のいいところだと思っています。音楽は僕にとって言葉と一緒で、だから自分の音楽にはあまり言葉はつけていません。ゆくゆくは楽器だけで自分の思いを伝えられるレベルになりたいと思っています。

ー アムロちゃんはライブでMCがほとんどないらしいですよ。

岡崎:音楽を伝えるという意味では結局それが一番正しいような気がします。ライブにはみんな音楽を聴きに来ていると思うので、そこに言葉としてのその人らしさはさほど必要がないような気がします。

ー プライベートなことも教えてください。まだ遊びたいさかりだと思うけど、二人は普段はどんなふうに遊んでいるの?

岡崎:健全に遊んでいます(笑)。青木と一緒に遊ぶのは月イチくらいですね。最近は僕も彼女の家に泊まりにいっちゃうことも多いので、この家にいることも少ないです。

青木:僕にとっては何をするにもエブリディ遊びという感覚があって、写真を撮ることも、友達とご飯を食べにいくのも遊びです。喫茶店や家で「美しいとは」、「アートとは」といった哲学的な対話が楽しいです(笑)。結局そういう友達との何気のない話が写真を撮るときに役に立っています。人やモノからインスピレーションを得ることが多いです。

青木柊野氏、岡崎圭吾氏インタヴュー 青木くんの使用カメラ

岡崎:そうですね。今はあまりお金もないですし、喫茶店にいって語りあって、バイバイという感じが多いです。人に会うこと自体が自分にとってはある種遊びで、東京という街自体がそういう影響を 与えてくれている気がします。ホント、そういった意味では富山とはまったく違う感覚です。この街にいると何が遊びか分からなくて、それで彼女と揉めることもあります(笑)。

ー 圭吾くんはファッション界の最高峰であるパリコレにモデルとして出たりしてるけど、今後二人は海外に出たいと思う?

青木:今は少し思っていますね。高校生の時に東南アジアを放浪した時期があったんですけど、凄く刺激的で印象に残っています。でも、日本で写真を撮ることが今の自分には大事な気がしています。一回「東京」みたいなものから離れるのもアリかなと思っています。それは海外かもしれないし、北海道かもしれない。東京じゃない場所への興味はつねにあります。写真という意味でも、東京と東京じゃない場所のギャップをどう表現するか?ということに興味があります。少子高齢化社会、年金問題など、日本の社会問題にも興味があって、そのことを考えている同世代ってほんと少なくて、それが選挙の低い投票率にもつながっているのかなとか。世の中の大切なことを写真を通じて若い人たちにも伝えたいと思っています。

青木柊野氏、岡崎圭吾氏インタヴュー

岡崎:平和だけど誰も「反論」ができないのが今の時代だと思います。SNSでも炎上なんて言葉があるように、みんな人のことを気にして誰も第一線を走ることが出来ないのが今の日本のつまらないところだと感じています。だから、そんな日本に閉塞感を感じて海外に出る人も多いんだと思います。それではまずいですよね。

ー 第一線を走れない、走りにくいのはその通りだと思う。出る杭は打たれるというような。では、最後の質問。二人にとって一番大切なものとは?

青木:僕は表現をやめないこと、かな。続けることでみえてくる景色もあると思うので。ロジャー・バレンという好きな写真家が「俺の写真は生涯だ」ということを言っていて、見た目や言葉ではなく、俺の写真を通して俺の人生を感じてくれと言っていて、それがすごく好きで、かっこいいです。自分が50歳、60歳、70歳になっても写真をやっていたいし、人生自体が作品となるように表現はやめたくないです。

青木柊野氏、岡崎圭吾氏インタヴュー

岡崎:僕は素直で純粋であることです。ここから先、人間としての芯が太くなっていくと思うのですが、人間として「堅く」なってしまうと、人を受け入れられなくなると思うんです。悪口を言ったり、人を批判したりしない人間でいたいです。人を第一印象で判断しないのが自分のいいところだと思うので、これから先もそれを忘れないようにしたいです。

青木:好きな小説家の言葉で「転がらない石には苔がつく。だから丸くなろう」という言葉が好きです。苔がつくことが悪いとは思いませんが転がり続けていたいと思います。

岡崎:いつまでも友達を大切にしたいです。今の自分にそれが出来ているかは微妙ですけど、その「大切にする仕方」を探し続けています。だからこそ優しさに気づくことが自分の一生の使命だと思っています。話は変わりますが、自分が親から与えられた名前に自分のすべてがある気がしていて、僕の場合だったら名前の文字に土がふたつ含まれているのですが、土は人に踏まれて衝撃を受けますが、植物が芽吹く土台になったり、 その上に家が建ったり基礎となります。そこには雨も降るけど、きちんと陽が射してそのおかげで生き物の芽が出るということにきちんと意識的でいたいと思っています。 それが結局優しさや人を思いやることに結びついていくような気がしているんです。

写真と文=加藤孝司

SHARE
top