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ある日、料理家の植松良枝さんとの雑談中、神田の街の話になった。老舗と新しい個人商店が共存している街だと言ったら、「面白そう! じっくり散歩してみたい」と言う。植松さんは、インド、ベトナム、台湾など、世界各国を旅行するのが趣味でもあり、特にスペインのバスクには毎年通って、バスク料理のレシピブックやガイドブックを出版しているという町歩きの達人。そんな植松さんが見つけた神田の魅力とは?
前編、後編と2回に渡って、植松良枝さんとのぶらり神田散歩のレポートをお届けします。
<後編はこちら>
神田の新しい魅力を知りたくて
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「神田は、古き良き東京が残っているという印象があります。サカキラボというオフィス空間で料理のイベントを開催することが多く、ちょくちょく遊びには来ているんですが、まだ知らないお店がたくさんありそう」と植松さん。
まずは、ポルトガル菓子を販売している「ドースイスピーガ」で待ち合わせ。
「以前より甘い物好きの間では話題になっていて、行って見たかったお店。この、路地裏ひっそりなんだけど本格的!というところがたまらなく萌えます。朝7時からやっているというのもいい。出勤前におやつを買いに来ている人たちの嬉しそうな顔、いいなあ。」
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店内は小さいながらカウンターがあり、スタンディングでイートインすることも可能。コーヒーなどのドリンクを頼むこともできる。
「このイートインスペースでコーヒーを飲みつつ、この上なくおいしいエッグタルトをほおばれば、今日一日頑張るぞ!となれますね。気になるお菓子がたくさんあります。“セジンブラの焼き菓子”はシナモン風味なんですね。病気のときに食べて元気になったって言われているなんて、日本のたまご酒みたい。こうして見ていると、ポルトガルのお菓子って卵をよく使うんですね」と植松さん。
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店主の高村美祐記さんにお話をうかがってみたところ、「そうなんです。当店定番の“エッグタルト”や“プリン”、“リス川のそよ風”も、卵黄を使います。そして、たくさん余った卵白を使っているのが、“ドライフルーツ入り白いケーキ”です」
この“白いケーキ”をひと口食べた植松さん、思わずにっこり。
「シフォンケーキのようなコシがありつつ、もっとどっしり、しっとりとしていて、おいしい! ドライフルーツがさわやかな風味で、しっかりと焼き込んでいるのも好みです」
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定番という“エッグタルト”も、絶対に食べなくては!
「パイ生地はザクザク、中のカスタード生地はジューシーでプルプル感というコントラストが素晴らしい。甘さは日本人好みで、私が現地で食べたものよりおいしい!」
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ポルトガルは2回訪れたことがあるという植松さん。高村さんとリスボンの話が弾む。
「“リス川のそよ風”は、修道院で作られてきたお菓子。卵とアーモンドパウダー、砂糖、シロップなどでできています。定番商品のほかにも、マルメロのお菓子とか、チーズを使ったお菓子などたくさんの種類があります。例えばこの“カバッカス”は、元祖カステラとも言えるシンプルなスポンジ生地。ポルトガル北部のカフェでは、これをつまみながら甘いポートワインを飲むおじさんたちをよく見かけるんですよ」
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江戸風情が味わえる老舗に立ち寄る
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さて、次に向かったのは、「神田志の多寿司」。
「寿司も神田名物という印象があります。以前、笹巻きけぬき寿司を食べたことがあるので、今日は志の多寿司に行ってみたくて」
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店内は近代的で清潔感があり、ショーウィンドーに見本が並んでいて買いやすい。職人さんたちがキビキビと動いている様子は、気持ちのよい緊張感があり、つい見とれてしまう。
「包装紙は、学芸大学の洋菓子屋「マッターホーン」や西荻窪の洋菓子屋「こけしや」と同じ、鈴木信太郎氏のイラストなんですね。すごくかわいい。包装紙にきちっと包まれた折り詰めって、手土産にするとものすごく盛り上がります。定番の太巻きや稲荷寿司だけでなく、季節稲荷があるのもうれしい。今の季節は柚子風味なんですね。食べるのが楽しみ!」
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植松さんが選んだのは、稲荷寿司と茶巾寿司。翌日の朝ごはんに食べたときの感想は、後編でご紹介。
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そろそろお昼どき。「神田と言えば、蕎麦が食べたい!」ということで、「まつや」へ向かった。
「藪蕎麦」と並んで老舗として知られる「まつや」は、情緒のある店構え。中に入ると「いらっしゃい! お2人さま、こちらね」とテキパキと案内され、江戸風情が味わえる。
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オーダーしたのは、カレー南蛮。とろみのあるあつあつのカレーつゆは、濃いだしの風味がたまらない。具が、長ネギと鶏肉のみというシンプルさもいい。
「常連の方々がカレー南蛮をよくオーダーすると聞いていて、いつか食べてみたいな、肌寒い季節に食べたらおいしいだろうな、とずっと食べてみたかったんです。このだしとかえしとのバランスが最高ですね。粉っぽさもなく、こなれた味。ざる1枚追加して替え玉するか、持って帰ってごはんにかけたいくらいです(笑)。そば湯を足したらポタージュみたい」
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植松さんが「まつや」に来たかった目的がもう一つ。カレー南蛮と一緒に出てきた七味だ。
「この「まつや」オリジナルの七味を、以前、築地の七味屋さんで買ったらおいしくて。柚子の香りが効いていて、秋冬の鍋料理や麺料理にぴったりなんです。手頃な価格だし、紙袋もかわいい! お年賀のご挨拶にもいいですよね」
「まつや」を出たら、近くにある「竹むら」もおすすめ(残念ながらこの日は定休日)。この蕎麦屋→甘味処という黄金コース、神田明神へお参りがてら訪れる人も多いよう。
<後編に続く>
写真と文=藤井志織
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