Journal

長田佳子さんとお菓子
(ときどきビール)探訪 (前編)

長田佳子氏インタビュー 写真:Takashi Kato

foodremediesという屋号で活動している菓子研究家の長田佳子さん。
旅の多い長田さんですが、「都心でも知らない街を散歩していると、旅気分が味わえるかも」と神田散歩に誘ってみました。

コーヒーだけでなくビールも楽しめる純喫茶へ

神保町は、ご主人の古本屋巡りのお付き合いでも、たまに訪れるという長田さん。グラフィックデザイナーであるご主人が資料の本を探している間、長田さんは近くの喫茶店でお茶をしていることが多いとか。

「神田には昔ながらの純喫茶がたくさんあって、喫茶店好きとしてはうれしい。さぼうる、ラドリオ、神田伯刺西爾あたりに、その日の気分で入ります。未体験のミロンガは、友達に『ミロンガの夜はすごいよ』と聞いているので、どんなお店か気になっていて(笑)」。

長田佳子氏インタビュー 写真:Takashi Kato

ということで、今日はタンゴが流れるミロンガ・ヌォーバへ。
入った瞬間、顔がほころぶ長田さん。入り口にずらりと並ぶビールの缶を発見したのでした。
世界中のいろいろなビールを取り揃えているのも、ミロンガ・ヌォーバの特徴。実は長田さん、大のビール好き。イチジクのタルトなどのお菓子の名前が並ぶメニューを眺めながら、

「…ビール呑んでもいいですか?」
いいですよ、今日はオフですからね。

長田佳子氏インタビュー

アルゼンチンタンゴのダンスの形式を意味する店名どおり、薄暗い店内にはタンゴがかかっていてドラマチックな雰囲気。
ミロンガの前身は、終戦後まもない頃に創業し、作家や芸術家がたまっていたというランボオ。その後、タンゴ喫茶ミロンガとなり、1995年に世界のビールをメニューに加えてミロンガ・ヌォーバとしてリニューアルしたそう。

長田佳子氏インタビュー

長田さん、コースターの可愛さにも注目。
「ビールの缶を並べてレコードのようにデザインしているのかな、おしゃれですねえ」。

老舗の佇まいと味に感動する

さて、ミロンガ・ヌォーバを出てから向かったのは、駿河台下にあるささま。
茶道に遣う生菓子や御干菓子などを販売している和菓子屋さんです。

長田佳子氏インタビュー

長田さんはこちらで、名物の松葉最中を購入。
小ぶりなサイズとパリッとした皮、小豆の粒が少しだけ残った口どけのいいあんは、洗練された味わいです。

「最中は、柔らかめの皮が得意ではなく。こちらの最中は翌日もパリッとしていて最高! 正方形で角に丸みがあるフォルムや、口に入れたときの全体の厚み、餡の甘さもすべて理想的でした。日本茶だけでなく、紅茶にも合う。これからは、一番好きな最中はささま、と言います!」

自宅用に購入したときに最中を入れてくれる紙の小袋や、上生菓子を入れてくれる簡素な紙の箱、手書きの領収証も老舗を感じる美しさ。

長田佳子氏インタビュー

さらに、近くにあるSTYLE’S CAKES&CO.にも立ち寄り、夕飯用にとキッシュを購入。

「今までは神田というと、友人が勤めていたこともあって近江屋洋菓子店に行っていましたが、いろいろなお菓子屋さんがあるんですね。今日はお休みで残念だったけれど、ポルトガルのお菓子を売っているドースイスピーガは、特に気になっているお店です」

クラシックホテルでティータイムを

残念そうな長田さんと御茶ノ水駅方面に歩き、山の上ホテルへ到着。
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ設計の建物の美しさもさることながら、こちらにあるティールーム、コーヒーパーラー ヒルトップも素晴らしいのです。

長田佳子氏インタビュー

「レースのクロスに端正な洋食器、銀色のカトラリーとエレガントな要素を重ねていく感じは、なかなか真似できない独特の美しさですね」。

聞けばこちらの食器は、コーヒーパーラー ヒルトップがオープンした当時、創業者の奥さまが百貨店に行って買い揃えたものを大切に使い続けているのだとか。素敵なおうちの客間にお邪魔したような気分になれるのは、そんな背景の影響もあるのかもしれません。

長田佳子氏インタビュー

さて、長田さんが選んだのは、苺のショートケーキと紅茶。

「老舗では、定番のケーキを選ぶことが多いです。オーソドックスな味が好きだから。こちらのメニューのなかで気になったのは、紅茶なら苺のショートケーキ。水出しコーヒーならヒルトップロール(ロールケーキ)もいいなあ。迷っちゃう」。

シェフ パティシエの安﨑正平さんと企画室 室長の峯松泰広さんにお話しをうかがったところ、こちらのティールームのお菓子は、懐かしさと上品さを大切に、奇をてらわずにおいしいものを目指して作られているのだそう。確かに、サバランやプリン ア ラ モードなど、正統派のメニューがずらり。

長田佳子氏インタビュー

「少し敷居が高そうなクラシックホテルだけど、あたたかなおもてなしを受けているような接客。ケーキも、そんなやさしさが滲み出ている味わいですね」。

長田佳子氏インタビュー

こちらのケーキ、ホテルのロビーで注文することもできるとか。
ティールームとはまた違ったクラシカルな空間でいただくのも、素敵です。

写真と文=藤井志織

長田佳子
長田佳子(おさだ・かこ)
菓子研究家、「foodremedies」主宰
レストラン、パティスリーなどで修行を積み、「大地を守る会」のカフェにてキッチンシェフを務める。
その後独立し、友人とギフト専門の焼き菓子店をオープン。ファッションブランド「YAECA」の「PLANE BAKERY」にてスイーツの開発・製造担当を経て、現在は店舗を構えず「foodremedies」(フードレメディ)という屋号で、お菓子教室や出張形式での喫茶イベントなどに取り組んでいる。
”レメディ”とは癒し、や治療するという意味。 ハーブやスパイスなどを使い、香りや食感から、まるでアロマが広がるような、なるべく体に素直に美味しいと感じられるお菓子を日々研究中。
2016年秋に初のレシピ本『foodremediesのお菓子』を出版。

http://foodremedies.info/

BACK NUMBER

Vol.30
>長田佳子氏インタビュー

都市からふたたび建築へ(後編)