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ensembleの名刺をつくる。
活版印刷編 <中村活字>

神田錦町から情報を発信するウェブマガジンensembleは、人と人、人と街とのつながりから生まれるストーリーを大切にこの街から生まれる出来事を綴っています。このたびensembleをより多くの方に知っていただくきっかけになればと思い、地元の企業の方のご協力のもと名刺を制作することになりました。名刺は人の手から人の手に渡る大切なもの。その時手に触れる紙は、思いを代弁する重要な要素に違いありません。ensembleの名刺ができるまでを2回にわたってご紹介する第二弾は、名だたるクリエイターも名刺の作成を依頼する活版印刷の老舗、中村活字さん。五代目店主の中村明久さんにお話をうかがいます。

ー このたびはどうぞよろしくお願いいたします。取材中にもお客様が名刺の依頼にいらっしゃいましたが、中村さん自ら印刷の窓口、そして名刺の印刷も手がけるのですか?

中村:職人さんがいて本当に忙しいときは頼むんだけど、高齢だからさ(笑)。名刺は人とのコミュニケーションだから、その人の人生にかかっている気がするわけよ

ー ちかごろ名刺交換の際に、活版印刷でつくられた名刺をいただくことがあるのですが、どこでお願いしたかを聞くこと、中村活字さんということがよくあります。活版印刷とはどのような印刷物ですか?

活版印刷はリアルなんだよ。いまの印刷物はプリンター、トナーで定着して熱で印刷する。オフセットはゴムに転写して紙に印刷をする。活版は組版した活字に直接インクをつけて、その原版に印圧をかけて紙に印刷する。だから薄くても厚くても、ほとんどどんな紙にも印刷ができるんだ。

ー 活版印刷は金属の文字や何も印字していない板のようなもので、大きなハンコのようなものをつくって1点1点つくるんですね。

活版は埋まってるわけよ。パソコンじゃ文字しか出てこないでしょ?たとえば、カードに文字が20文字あったとして、それ以外は活字の間に入っているのはクワタで、通称込めもの、行間はインテルというんだ。日本の活版は基本の文字の大きさが5号、ポイントでいえば10.5。それには理由がありわけ。それがインテルの5号という幅。イギリスやアメリカやヨーロッパは12ポイントが文字の大きさの基本。活字の高さも違います。活版は印刷の文字の基本だからね。いまはパソコンでなんでもできちゃけど私たちはパソコンがない時代からやっているからね。その基本はデザインをする人ならば、知っておいたほうがいいと思うんだ。ルーツというものは継承していきたいからね。

ー 今回竹尾さんのワイルドという紙に印刷をしていただきました。厚口で品がある仕上がりで気に入っているのですが、刷った感じはいかがでしたか?

羊毛紙、コットン紙っぽい感じがするね。決して刷りやすい紙ではないけど、印圧を強くすると印刷にいい表情がでるね。活版にあう紙だね。オフセットじゃこの紙の味はでにくいんじゃないかな。それにしても厚い紙だね。普通の紙はこの紙の1/3だよ。

ーー活版印刷は現在大人気ですが、それでは20年ほど前にはだいぶ厳しい時代があったと聞きました。いつごろからいまのように若い人たちに注目されるようになったのでしょうか。

15年くらい前から口コミで評判になってね。ブログが出始めたころで、ありがたいことに若いコたちがたくさんオーダーに来てくれるようになったんだ。いまは個人のお客様ばかりだけど、それまでは印刷屋さんの下請けや会社の名刺の印刷。個人のお客さんからのオーダーなんて一件もなかったんだよ。いまでは会社の名刺を持っていても、それじゃいやだってお客さんも多くて、ウチに印刷にくるわけ。だから世の中の仕事のあり方自体も変わったんだよ。それと名刺を自分の分身だって考える人が増えている気がするね。まえにネットでみたんだけど、ウチで名刺をつくると出世するっていわれていてね。それは嬉しいね。

ーーそこまで愛される理由はなんだと思われますか?

活版印刷には味があるなんて言われるけど、これまで長いこと仕事をしてきて「味」なんて言われたことも考えたこともなかったね。昔は会社の名刺なんて名前を差し替えるだけで大量につくることができたけど、いまは個人のお客さんが増えたから大量につくることはできなくなったし、つくらなくもなってね。8年まえに創業100年を迎えて、みんなが添え書きをしてくれたんだ。みなさんウチの名刺でつながったとか、人生変わったとか、この場所はパワースポットだとか書いてくれる。つくるほうもだけど、お客さんにとっても一枚一枚の名刺に思いがこもっているからなんじゃないかな。

ーー最後に、神田錦町と同じように銀座界隈も古くからの伝統がある街ですね。古くからのお店もまだまだたくさんあるのでしょうか?

銀座もバブルがはじけてから、古いお店がなくなっちゃってね。この界隈はみんな商売をしていて古い人もたくさん住んでいたんだけど、バブルでみんな売っちゃってね。最近はマンションが増えて人口が3倍になっちゃったみたいだね。ウチは創業108年で、活字も戦後そのまま。関東大震災では焼出、戦中は金属の供出で鉄砲の玉になっちゃったんだよ。それと地震があると活版屋はみんな廃業しちゃうんだよ。なんでかって?活字が棚から落ちて字に傷がついちゃうんだよ。そうするともう使えなくなっちゃう。こまかいから拾うのも大変なんだよ。ウチもそうなったらこの次はないね(笑)。

中村活字
明治43年銀座に創業した活版印刷の老舗。店主の中村さんの温かい人柄に惹かれ、「人生がかわる名刺」をつくりに日本中からお客さんが訪れる。
http://www.nakamura-katsuji.com

写真と文=加藤孝司

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