ジョアンナとの対話。
テラススクエアフォトエキシビションvol.24では写真家でペインターのジョアンナ・タガダ・ホフベックの個展が開催中です。ジョアンナはフランス生まれで現在はイングランドを拠点に活動するアーティストです。自然との関わりの中から生まれる作品は、自然や私たちの環境へのやさしさとおもいやりに溢れています。イングランド南東部のオックスフォードシャーにいるジョアンナにメールインタビューを行いました。彼女の言葉から作品の背景を感じてください。
ー ジョアンナさんはフランス生まれだそうですが、フランスのどちらで生まれて、どんな子ども時代を過ごしましたか?大学で学んだことを教えてください。
私はストラスブールで生まれ、アルザスの田舎で育ちました。アルザスの田舎や風景は美しく、父方の祖父母と過ごした時間がいい思い出です。二人とも植物が大好きで、野菜や果物、ハーブ、ナッツを育てていました。祖母は熱心な「植物コレクター」でもありましたが、自分ではそう呼びませんでした。祖母にとって植物は家族みたいなものだったんです。子ども時代は、とても楽しいものでした。
一人で、または友人や家族と一緒に、絵を描いたり、図書館ごっこをしたり、小さな本をつくったり、新しいことを学んだり、踊ったり、庭に行ったり、歌ったり、読んだり、掃除や料理をしたり、服をつくって遊んだり、虫や木や動物を観察したり。そこにインターネットを足すと、ある意味、まさに今私がしていることですよね。高校では文学、哲学、語学、コンテンポラリーダンス、視覚芸術に力を入れ、その後、フランスの公立美術学校(Haute écoles des arts du Rhin)に入学しました。そこで学んだのは2年間だけで、学位取得課程は履修しませんでした。
映画の先生(ヤン・ボーヴェ)に勧められ、英語圏の思想に専念するため、英語力を向上させました。彼は、私が今でも非常に尊敬しているトリン・T・ミンハの作品を紹介してくれました。学校では得られない、実践的な経験や多様な知識に憧れ、カナダ、スイス、ドイツ、イギリスなどで生活したこともあります。
学校を辞めたとはいえ、「勉強」し学ぶことはやめず、別の方法で行っています。最近では、2021年に「社会的・療法的園芸学」の講座を受講しました。
ー 今回の作品について教えてください。
本展の写真は2014年から2022年にかけて撮影されたもので、「Analog Diary」と題されたより大きな作品群の一部です。すべて35mmカラーフィルムで、一台のカメラと一本のレンズで撮影されています。撮影場所は、アルザスかイングランド、私が故郷と呼ぶ二つの場所のどちらかです。この展覧会の準備を進めるうちに、『Journal du Thé』のようなプロジェクトで撮影した写真とは対照的に、私が共有したいのは、もっと親密な写真だということがだんだんはっきりしてきました。
写真に写っている人、家、植物などの要素はすべて私の日常生活の一部であり、家族であり、愛する人たちであり、通りすがりの家々や植物であり、お茶を飲む時に使うカップなんです。写っている家々の中には、完璧に美しいアルザスのパステル調の木組みの家ではなく、古ぼけて、おそらく手入れが必要な家もあります。同じように、これらの家に住んでいる人たちを子どもの頃から知っていて、通学路でいつも「こんにちは」と声をかけていたので、親しみがあるんです。
写真の一部は、「Les Plantes de Mamie」シリーズ(2012〜2019年)のものです。「Les Plantes de Mamie」は重要な作品群であり、私の他の作品の多くを説明するものだと思います。2012年、植物を抱えた祖母の子どもの頃のポートレートからインスピレーションを得て、祖母ヨランドの生涯にわたる植物への愛情を描く「Les Plantes de Mamie」というプロジェクトを祖母と一緒に始めました。アルザスの田舎にあった彼女の家には、500鉢以上もの鉢植えがあり、その庭は本当に驚くべきものでした。1960年から大切に手入れをされてきた、気持ちよく穏やかな場所だったんです。ヨランドは遠くへ旅行したことがなく、この場所を自分の小さな世界と呼んでいました。庭で聞く鳥の声が大好きで、屋内の庭(彼女の家全体)をもっと屋外のようにしたいと思っていたんです。
ヨランドの植物に対する愛情は、とても感情的なものでした。「私は植物を必要とし、植物も私を必要としている。私が役に立つと感じさせてくれるし、ポジティブなエネルギーを受け取るの。植物と一緒にいると楽しい。私が年をとったからというだけでなく、植物の世話をすることには何かスピリチュアルなものがあるのよ」と言っていました。2019年に祖母を自殺で亡くしたことは、私にとってとてもつらいことでしたが、写真を通して、植物に対する祖母の溢れる愛を共有し続けることができることに癒しを感じています。その他の写真は、シンプルで楽しい日常のひととき、夫のジャティンダーと一緒にランチをしたり、イギリスにあるデレク・ジャーマンの庭の近くのビーチを散歩しているところなどです。
ー タイトル「Caring & Tender -A painter’s photographic diary-」に込めた思いを教えてください。
写真だけの展示を通して、写真作品を発表するのは今回が二度目です。この展覧会の準備のために、私は12年間のアーカイブを掘り下げることができました。現像したネガとメモをもとに行われたこの旅で、私が写真に引き付けられるものが何であるかに気づいたんです。それは、おもいやりとやさしさに満ちた瞬間です。その瞬間は、もろく、はかないものであり、見過ごされてしまうかもしれません。この写真展が、他者と「愛」を分かち合うものであることを願っています。
ー 親しい人を撮影するのはどんな気持ちですか?
集中、興奮、幸福、その瞬間を生きること、静寂、思いやりを感じます。そして私の視界は、もう少し長く感じていたいと願う美的情緒で満たされます。
ー ジョアンナさんの写真には世界を見るときの独自の眼差しを感じます。以前「Photographing like a painter」(ペインターのように写真を撮る)とおっしゃっていましたが、ジョアンナさんにとって写真とはどのようなものですか?(写真がドローイングやペインティングのためのリサーチ・研究にもなっている、とおっしゃっていました)
世の中のほとんどの絵画は、細部を正確にとらえることに重点を置いていません。絵画というメディアは、細部がないことで、穏やかさや夢、癒しを与えてくれるのだと思います。私は、ペインターのように写真を撮ることで、本質を形づくる雰囲気や細部を捉えることを意図していますが、必ずしも鮮明さや正確さを求めているわけではありません。私はレンズを一つだけしか使いませんが、多少ぼやけることがあったり、鮮明でないことがあるのが好きなんです。私のカメラには一組の目があるようなもので、時間が経つにつれて、その目を通して見ることができるようになりました。焦点を合わせることができる範囲も、アングルの幅も限られていますが、それが好きなんです。それが、私の写真に個性を与えていると思います。
ー ジョアンナさんと道具としてのカメラの関係はとても自然なものなのですね。
私にとって、写真、カメラ、フィルムは、思い出を残し、時間、空間、生き物、活動を記録するための道具です。この12年間、私はカメラを二台しか使っていません。父からもらったミノルタ、そしてそのサポート期間が終わってしまったので、ジャティンダーのお父さんから譲り受けた古いニコンです。だから、私の写真活動には、受け取ることと与えることも何か関係しているんです。時にはペインティングの参考にもなりますし、コラージュのための色彩研究にもなります。10年以上、ほぼ毎日写真を撮り続けることは、見ることと聞くことの素晴らしい訓練にもなります。私は、自分が写真家であると言うよりも、写真を撮るペインターであるとか、カメラを使う、あるいは写真を探求するアーティストであると言う方が好きです。写真家になるには、私が持っている手段や道具よりもはるかに多くの知識が必要だと思います。しかし結局のところ、それは単なる言葉であり、写真家と呼ばれたときに口を出すことをやめました。
Portrait by Nishant Shukla,2021.Commissiond by The Weekender Magazine.
ー ジョアンナさんは日常的に愛用のカメラを持って撮影をされていますか?絵、彫刻、ガーデニング、執筆、出版など、さまざまな手法で表現をされています。それらと写真との違いを教えてください。また、表現のアウトプットにおいて、写真のどのようなところに利点を見出していますか?
はい、ほとんど毎日です。12年経った今、アーカイブを遡って、何らかのかたちで写真を共有することに時間を割く必要があると感じています。今年、初めて写真集を出版する機会を得ました。タイトルは『Work The Soul Must Have』。イギリスのJane & Jeremyが編集・出版したものです。私のお気に入りのインディペンデントな出版社の一つで、彼らと一緒に仕事ができたことを光栄に思っています!
写真というのは、時間が経つにつれて、より意味を持つようになるのかもしれませんね。また、何年も何十年もかけて、ゆっくりとしたペースで作品群が育っていくのも好きです。写真を撮れば撮るほど、そしてあとでお茶を飲みながら撮った写真を見れば見るほど、自分の興味がどのようなものなのかが分かってくるんです。フィルムを現像すると、よく夫や家族、友人と一緒に写真を見ながら、その瞬間やその場所について話をします。そうすると、とてもすてきな、温かい気持ちになるんです。私の写真の大部分は、キュレーションされたものでも、設定されたものでもなく、あるがままを撮影しています。それは、何でもない道に生えている小さな植物かもしれません。それは、どこかに見るべき美しい何かがあるということを他者と共有するための方法なんです。また、美しさとは何かを考えることでもあります。私は、美しさとは物理的な特徴ではなく、本質やあり方だと考えています。
photo:Johanna Tagada Hoffbeck
ー すごく素敵な作品集だと思います。今回のテラススクエアでの展示作品にも見られますが、出版プロジェクト「Journal du The」など、私はジョアンナさんのティーカルチャーにまつわる活動も大好きなのですが、ジョアンナさんにとって「お茶」とはどのような存在ですか?
それは、自分や他者と一緒にいるための作法です。JdTにとっても、ティルマン(T.S. ウェンデルシュタイン/75W Studio)や私にとっても、お茶は一緒にいることと平和の象徴です。お茶やティザンは、その品質の高さを通してだけでなく、その多様な文化を通して、おもてなしの機会を与えてくれるんです。私は、お茶を用意して振る舞うことが大好きです。また、お茶をいただき、人々と一緒にいられることもありがたく思います。JdTのおかげで、たくさんのすてきな、思いやりのある人々に出会いました。JdTの今後の展開が楽しみです。現在『Chapter 4』を作成中です。
Journal du The Chapter 1photo:Johanna Tagada Hoffbeck
Journal du The Chapter 1
photo:Johanna Tagada Hoffbeck
Journal du The Chapter 2
photo:Johanna Tagada Hoffbeck
ー 長年、身の回りの自然や、身近な親しい人々とのコミュニケーションとの関わりのなかから作品を制作されていますが、それらのどのようなところに作家としてインスピレーションを受けているのでしょうか?
ディープ・エコロジー運動を含む多くの哲学や文化がそうであるように、私も、人間は自然の一部であると信じています。ですから、私は自然や、植物、虫、そして人間の立ち直る力や我慢強さからインスピレーションを受けています。
テラススクエア展示風景photo:Takashi Kato
ー 近年のコロナ禍や気候や社会変動…など状況の変化は目を見張るものがあります。近年の取り組みは「WORK THE SOUL MUST HAVE」にもまとめらていると思いますが、拝見するに、以前よりも強く、身近なものや、自然からの恩恵への強い慈しみを感じます。それは今回のテラススクエアの展示作品にも感じます。現在の環境は、ジョアンナさんの作品にどのような影響を与えていますか?
私たちが生きている時代は、多くの恐れや不安を生み出すことがあると思います。私を含め、多くの人々が、起こっていることすべてに圧倒されてしまうかもしれません。私は、安全で楽しく、居心地のいい場所を提供し、人間や他の生き物のために、思いやりのある良い今日と明日を考え、想像し、つくるように人々を誘う作品やプロジェクト(The Gardening Drawing Clubなど)の一部になるように、つくるように心がけています。
ー コロナ禍も徐々に落ち着きつつはありますが、今回の制作は遠隔によるものとなりました。直接な繋がりはもちろん大切ですが、離れていても私は繋がっていることを感じることが出来ました(その半分以上は金沢さんのおかげです)。このような時代において、さまざまなかたちで作品を作り発表し続けること、人々との繋がりを持ち続けることは、ジョアンナさんにとってどんな意味を持っていますか?
特に、画面上に多くの時間を要求されるため、かなり難しいかもしれません。パンデミックのとき、友人のグラフィックデザイナー、アリシア・ルーと私は、金沢さんの協力を得て、人々が自分のいる場所で私の作品を体験することができるfleures.orgというプロジェクトを立ち上げました。
私は、2019年以降、日本を訪れることができないにもかかわらず、日本で作品を発表し続けることができたことをうれしく思い、感謝しています。リモートで一緒に仕事をした皆さんは、とても親切で、根気強く、献身的でした。また、私の作品の可能性をさらに実感しました。一度存在すれば、私は必要ないんです。素晴らしいことですが、人々が作品と一緒に生き、つながることができるんです。
ー 今回の展示場所となる東京について少し教えてください。東京についてどのような印象をお持ちですか?
私は東京を訪れるのが大好きです!とても楽しくて、庭園や美術館、お寺など、見たり体験したりできることがたくさんあります。これまで五回ほど東京を訪れましたが、いつも夫と一緒でした。私たちは、東京で出会った友人やコラボレーターたち、そして展覧会やコンサートを開催できたことに感謝しています。こうした思い出はすべて、私の心をとても幸せな気持ちで満たしてくれます。東京を訪れる前、私にはアーティストの角裕美さんというペンパルがいて、2014年から何度もお会いすることができたのは夢のようでした!彼女や日本の友人たちに会いたいですね。
ー 東京の中で好きな場所とその理由、そこではどんなことをして過ごすのが好きですか?
私は食べることが大好きです!おいしいものが大好きで、植物性のものだけを食べ、動物性のものは食べません。東京には、8ablish、Brown Rice by Neal’s Yard Remedies、なぎ食堂など、おいしいプラントベースのレストランがありますね!お腹が空いてきました!
ー 次に東京に来た時にはどこに行ってどんなことをしたいですか?
友達とご飯を食べに行ったり、散歩に行ったりしたいですね! 本屋さんや庭園に立ち寄るのもいいかもしれません。
Portrait by Nishant Shukla,2022.Commissiond by Grain Magazine.
翻訳=金沢みなみ Minami Kanesawa、まとめ=加藤孝司 Takashi Kato
- テラススクエアフォトエキシビションVol.24
ジョアンナ・タガダ・ホフベック おもいやりとやさしさ
Caring & Tender -A painter’s photographic diary- - 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
- 開催日時: 2022年8月22日(月)〜2022年11月18日(金) / 8:00~20:00(最終日は18:30までとなります)
- 休館日: 土曜・日曜・祝日・年末年始 入場無料
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