Bryan Schutmaat
Sons Of The Living
2025.5.26

テラススクエアフォトエキシビションVol.34は、アメリカ、テキサスで活動をするブライアン・シュットゥマートの「Bryan Schutmaat/Sons Of The Living」を開催します。ブライアンはアメリカはもとより、欧州でも注目される現代アメリカの写真家です。その被写体は、小高い丘に囲まれたアメリカ南西部の荒涼とした砂漠地帯の風景であり、そこで暮らす人々です。

以下、テラススクエアフォトエキシビションキュレーターによるテキストです。

アメリカ南西部に広がる砂漠地帯、広大な大平原。荒野へと繋がる山間を寝そべるようにつらぬくハイウェイ。開拓時代の面影の残る鉱山コミュニティ、19世紀半ばから脈々と続く石油産業、いつからそこにあるのか…、朽ち果てて判読不能な看板、光に反射して垂れ下がる電話線。そして、その周辺で生きる、ドリフター(放浪者)、ヒッチハイカー、旅行者、労働者たちという見知らぬ隣人たち。開拓の残り香と自然そのものの力によってならされ均質化した、変化し続ける荒涼とした風景へと導く、ある種の希望を見出す偉大なる大地への絶望的なロードトリップ。

アメリカ・テキサス州の州都オースティンで活動する写真家、ブライアン・シュットゥマート 。10年以上にわたり、都市ではない、人里離れた場所へと西に向かって車を走らせ、その土地とともに生きる人間の歴史、文明の一断面を記録してきたのが本作である。
旅の途中で出会った人々と時に長い時間を過ごし、ある種の境界線を踏み越えて物語を共有する。ヘッドライトの灯りを純粋に物質化する長時間露光で撮影された光線。それはこの地を通り過ぎてきた開拓者たちの幻影にもみえる。

17世紀初頭に始まるアメリカ西部開拓の歴史。豊かな天然資源に恵まれたフロンティアはまた、そこにある社会性、経済性、政治性に目を向けるまでもなく人間の営みに還元される。シュットゥマートの作品の根底に流れるのは、人々の営みに対する感傷的なノスタルジーではない。18世紀以来、この土地をある種のフロンティアとして、希望とともに見出してきた、名もなき多くの探検家や冒険家たちの眼差しを、写真を通じて批評的に取り戻すこと。それが見つめるのは、時間の経過と共に上書きされる偽りの文明が明るみになったようにみえる今だかこそ、逆説的にそれこそが現代の私たちにとって希望となりうる、という啓示である。

長い夜が明けると、朝陽と共に闇の中からメインストリームから忘れられたものたちが目を覚ます。そして夜通し走り続けてきたばかりというのに、ざらついたハンドルを再び握ると、乾燥した道路脇から何かが飛び出してくるのが見える。
人間の歴史と文明の光と影。人々が多くの希望と、それと同じくらいの犠牲と共に生きてきた大地。シュットゥマートの写真を通じてこれらの土地に思いを馳せることは、”見つめ続けることはいつの時代においても不毛なことではない”、という世界中あらゆる場所と時代において共通する命題であろう。
土地に染み着いた長い歴史、敬意と忍耐とともに見出してきた人間の尊厳。

20世紀のアメリカ写真が描いた物語を反面教師としながら、私的な眼差しで21世紀の物語を描くこと。それは、現在を生きる私たちに成り変わり、”今”を写し出し、さらに、その先を提示する。シュットゥマートの作品は、そんな埃っぽい過去を、未来へと繋ぎ、現在に確たる楔を打ち込んでいく。

Bryan Schutmaat ブライアン・シュットゥマート
写真家。1983年生まれ。アメリカ・テキサス州オースティンを拠点に活動する。生まれ育った、アメリカの南西部テキサスを舞台に、19世紀から続くアメリカ西部開拓の歴史を想起させる広大な風景の中、撮影される写真が国際的に高く評価されている。出版に「Grays The Mountain Sends」(Silas Finch Foundation・2013年)、「Islands Of The Blest 」(編纂・Silas Finch・2014年)、「Good Goddamn」(Trespasser・2017年)、「County Road」(Trespasser・2023年)、「Sons Of The Living」(Trespasser・2024年)がある。作品は「ボルチモア美術館」、「ボストン美術館」、「ピア24フォトグラフィー」、「アムステルダム国立美術館」、「サンフランシスコ近代美術館」などに収蔵。Kominek Gallery(ベルリン)、Marshall Gallery(ロサンゼルス)、Sasha Wolf(ニューヨーク)、Galerie Wouter van Leeuwen(アムステルダム)、PARIS PHOTOなどでも展示されている。「 John Simon Guggenheim Memorial Fellowship(ジョン・サイモン・グッゲンハイム記念フェローシップ)」、「Aperture Portfolio Prize(アパーチャー・ポートフォリオ)」、「Aaron Siskind Fellowship(アーロン・シスキンド・フェローシップ)」などの受賞歴がある。出版社「Trespasser」共同主宰。

Text=加藤孝司 Takashi Kato



  • テラススクエアフォトエキシビションVol.34「Bryan Schutmaat/Sons Of The Living」
  • 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
  • 会期:2025年5月26日(月)ー9月26日(金) / 8:00~20:00(最終日は19:00までとなります)
  • 休館日: 土曜・日曜・祝日、入場無料
  • 主催:テラススクエア | 協賛 住友商事 | 企画 加藤孝司、三浦哲生
SHARE
top