stay, runaway .
池野詩織さんインタビュー
2019.9.08

テラススクエアで写真展が9月30日まで開催中の池野詩織さんにインタビューをしました。友人たちのポートレートや道行く人々、電線に止まる鳥影、何気ない日常など、そのどれもが静けさに満ちた本作はどのように生まれたのか?今、注目したい写真家、池野詩織さんに本作の創作の背景や、写真、そして同時代のつくり手たちとの関わりなど、たっぷりと話を聞いた。

ー 本展の作品について教えてください。

stay, runaway というタイトルは、とどまる、逃げ去る、というそのままの意味で、時折波のようにやってくる逃げ出したい衝動を抱きつつも、ここで生きているという、きっと誰もが持っているごく普遍的な心情を表しています。
ただ個人的な心情を表したというよりも、鑑賞者に対してあなたもそうだよねと語りかけるような、メッセージのような展示にしたいと思い、近年撮影したスナップ写真を中心に構成しました。

ー 池野さんが写真を撮るうえでいつも気にしていることを教えてください。

同じ時代を生きている人たちに伝わるような写真にすることです。

ー 本展の作品もそうなのですが池野さんの作品は、ポートレートと日常のシーンがどちらも等価値に扱われているようにみえます。池野さんが写真を撮るときに意識していることはどのようなことですか?

写真を撮るときの状況によって意識することは変わってくると思いますが、撮影した写真はどんな状況のものもフラットに捉えています。

ー 今回の展示作品には友人のポートレート、ストリートスナップ、あるいは自室の窓からの景色など、複数の要素が混雑しています。なぜそのような構成にしたのか、その理由を教えてください。それとポートレート、風景写真、どちらがお好きですか?

日常の中で自分のレンズを通過した絵たちが、混雑したまま同じサイズで淡々と並んでいるようなイメージがあったので、被写体や状況は敢えて絞らずに構成しました。
どちらかというとポートレートのほうが好きです。強烈な被写体を追いかけるのは熱中できてわかりやすく面白いけど、風景を撮るときは自己投影しているフシがあって、撮った写真から分かることがあったりするので面白いです。

ーー最初に意識をして写真を撮り始めたのはいつですか?その時はどのようなものを撮影していましたか?

2011年頃です。その時は一番仲が良かった友達のことを撮影していました。お互いに写真を撮っていたので、初めての展示もその友達とお互いを撮りあった写真の展示をしました。

ーー普段使用しているカメラを教えてください。

メインで使っているのは2台で、普段いつも持ち歩いているのはコンパクトカメラです。contax T3(使用歴6年)は色んなコンパクトカメラを使ってきて行き着いた自分に一番しっくりくるカメラです。
canon Eos5(使用歴3年)は初めて買った一眼レフです。正直なんでもよくて、フラットなものが欲しくて買いました。これを買うまではずっとコンパクトカメラだけでした。

ーーフィルムカメラを多く愛用されていますが、デジタル全盛の今、フィルムを使用し続けている理由を教えてください。

デジタルカメラを一つも持っていなくて、今まで誰かにもらったりして使っていても壊れてしまったりなくしてしまったりして、縁がありませんでした。
最初にフィルムカメラを使い始めた理由は好きな写真がフィルムで撮影されているものが多かったから。
デジタルに抵抗は全然ないのですが、自分の作風みたいなものがフィルムでしか出せないニュアンスだったりして、ずっと使ってきた分からだに馴染んでいます。
光でもLEDより白熱灯の熱い温度感が好きで、家の明かりもどんなに燃費が悪くても白熱電球です。フィルムも同じで光で焼き付けている行程にそのまま温度がのっていると思う。そういう温度感のほうが感情をのせやすくて好きです。でもデジタルの立体感のない鮮やかさもかっこよくて、別物として好きです。
わたしが写真をはじめた頃よりも、若者のフィルムカメラブームがあって盛り上がっているように感じられるけど、フィルムはどんどん値上げするし廃盤になるし、時代は確実に衰退していると思います。それでもフィルムを続ける理由は、仕事でもまだまだニーズがある実感があるからで、そして単純に自分の作品に必要だからです。

ーーテラススクエアでも展示をしてくれている青木柊野くん、草野庸子さんなど、20〜30代の若い写真家の活躍が目覚ましいと思っているのですが、同世代の写真家との共通意識と、逆に意識の違いなどがあれば教えてください。

同じ時代で生きている同世代のアーティスト達とは、避けられない共通意識みたいなものがあると思います。私たちはいわゆる「いい時代」を知らないし、世の中がどんどん混沌とした方へ向かっていて、そのムードを完全に無視できている人はいないんじゃないかと思います。特に表現をしている人たちは。方法は違えど、同じ空気を吸って、それぞれのフィルターを通してそれぞれの作品が出来ていると思います。

ーー今回のテラススクエアでの展示作品は、SNS以外では初披露されたものであり、新たなコンセプトのもとに取り組み始めたものだそうですが、今回の展示を踏まえ発表したものが今後どのように発展していきそうですか?

すべてが新しいコンセプトに基づいた写真ではないのですが、最近の新しい取り組みとしては、家の窓や屋上から望遠レンズで撮り溜めているシリーズから初めて数枚発表しました。
これまでは近しい被写体を近い距離で撮ったものが自分の作品をかたちづくっていましたが、自分の住む家から、数軒先の木の満開の花、家の前の道路を走っているタクシー、遠くを歩いている人、電線にとまっている鳥など、自分とは無関係の何でもないものを撮り溜めています。
最近、ずっと外に向かっていたエネルギーが内側に向いている感じがあって、そういうものを撮っている時に自分の内面を投影しているような気がして面白いです。
このシリーズがどんな風に発展していくかまだはっきりとは言えませんが、この展示がきっかけで、今の自分の向いている方を見つめ直すきっかけにもなりました。

ーー今回はオフィスビルのエントランスでの開催となりますが、このような場所での展示はいかがですか?

ギャラリーと違って、自分の作品を観に来た人以外の目にも触れるのが面白いです。普段自分とは真逆の生活を送っているスーツ姿のサラリーマンの人達には私の作品がどんな風に写っているんだろうと思いました。

ーーテラススクエアでの展示はまだ続きますが、今後の予定を教えてください。

9/13-15のあいだ渋谷のTHE CORNERにてEDWINの5Photographer企画というのがあって、そこで撮りおろした写真が展示されます。15日にはトークショーがあります。(https://edwin.co.jp/shop/pages/special_503.aspx
それから、9/21(大阪).10/21(東京)に、仲間と作っている全感覚祭という音楽イベントがあります。(https://zenkankakufes.com/
そこでは自分の展示もする予定だけど、どちらかというと展示アーティストのキュレーションと調整役を主にやっています。

池野詩織 Shiori Ikeno
1991年生まれ。2012年大学在学中より写真家として活動開始。 ファッション、コマーシャル、ミュージック、アートなどあらゆるジャンルをベースに活動。 2018年9月にcommune Pressより写真集『オーヴ』をリリース。2019年4月にはロサンゼルスにて同名の個展を開催。 現在、Ollie magazineで「GLOW IN THE GIRL」を連載中。 https://www.instagram.com/ikenoshiori。

写真と文=加藤孝司

  • テラススクエアフォトエキシビション #13
    – stay, runaway - 池野詩織
  • 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
  • 開催日時: 2019年7月9日(火)〜9月30日(月) / 8:00~20:00
  • 休館日: 土曜・日曜・祝日
  • 入場無料
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