Shota KONOとの対話
前編
テラススクエアフォトエキシビションvol.23では写真家でビデオグラファーのShota KONOの「It does not include merely potential or possibility, it is actual」を開催中。展示に先がけてShota KONOと写真や映像をめぐる対話を行った。筆者はつねづね作家が写真作品として写し出すイメージの謎に興味を持ってきた。それはいつ、どんな状況で撮影されたものなのか。それは事実なのか虚像なのか。全ての写真はそれが撮影された時、それをみる時、それを複製する時など、時間軸の中に位置づけることが可能だ。そしてそれはいつでも過去であり、加工することが可能であることは、現代では誰もが了解済みであり折込済みなことである。それでは人は何をもって写真をあるイメージや現象として了解するのか?作られたイメージにも真実が含まれるのではないだろうか?写真はそれをみる者にいつでも謎のありかを問いかけている。
ー 河野さんはとても謎めいたところがあって、今回のインタビューではそれを少し解きほぐしていきたいと思っています。学生時代は服飾を学んでいたそうですが、その後、写真をするようになるまでにどのような経緯があったのでしょうか?
専門学校で服飾を学んでいましたが自分的にはアウトプットの方法としてファッションはしっくりきていませんでした。卒業後はしばらくふらふらしていて、その傍でテキスタイルなどの素材を組み合わせた立体作品を制作していたのですが、資金的にアーカイブのための保管場所を借りることができませんでした。どうしようかと考えた時に作品をアーカイブするのに最も省スペースだったのが写真にすることでした。それが写真を始めたきっかけです。
「It does not include merely potential or possibility, it is actual」より。ー 最初は記録としての写真だったんですね。
ちょうどその頃、友人に誘われてMETAMORPHOSE(2006年)という野外音楽イベントに行ったのですが、マニュエル・ゲッチング*のE2-E4*を聴いた体験が強烈で現在の物事に対する考え方に影響を与えています。
*( Manuel Göttsching , Germany )
*( 59分35秒ノンストップの1曲 , 1984年 )
ー それはどういったことですか?
今回の展示にも繋がるのですが、音の重なり、光の重なり、空気の重なり。そういったものをライヴを通して感じ、その体験で世の中にはいろんなレイヤーがあるということに気づきました。実際に聴いてもらえれば分かると思いますが、とにかく音の重なりとディレイによる重なりのズレで空間自体が膨れ上がるように僕は感じて。その場に身を任せると、まるで 水の中にいるようにスロウで優しいものを感じた一方で、水中特有の身動きの取りづらさも同時に感じました。 今もそうですけど、誰かと対話をしていても、確かに意思疎通は出来ているんだけど、どこか通じ合わない部分って感覚としてありますよね。それ以外にもたとえば、なんらかの事情で言葉を発することが出来ない人とは、そもそも言語を通じての意思疎通は出来ません。でもどんな人にも伝えたいことはあるはずで。それと近いことなのですが、このライヴで自分が感じた感覚を人に伝えたいんだけど、それを100%伝えることができないということをハッキリと認知した時に人との関係性にもレイヤーがあるんだなと感じました。もちろん100%は伝わらないなんて普通のことなんですが。
「It does not include merely potential or possibility, it is actual」より。ー コミュニケーションにもレイヤーがあるということですか?
そうですね。僕自身が説明下手というのも多分にあるんですが、それでも当然伝えたいことがあって、でもそれを「これです」という提示の仕方だけでは伝わらなくて。それを伝えるためには「真ん中」だけでなく、そのまわりにあることを含めて全体として提示しないと成立しないのではという考えに至りました。今もそれを写真や映像を通じてやっているという感じです。
ー そのメディアが写真や映像だったということでしょうか?
今思えば写真や映像である必要はなかったのですが、タイミング的にたまたま写真が自分の中でマッチしたという感じです。
ー 写真はその中にいくつかのレイヤーがあるとしても、紙の表面にあるという意味で「面」の表現だと思うのですが、それをどうやってレイヤーとして表現するのかはすごく興味があります。
むしろ二次元だからこそ、前後奥行きが感じられると思うんです。僕が写真としていいなと思うものは、写っているものもですが、そこに「前後」が見えるものです。ある現象があってこうなったということや、なぜそこにこの人がいたのか、どうしてこの物がそこあるのかを考えさせられ、いかに興味深く想像できるかが重要で。そもそもなぜこれを撮ったのかという写真の外にまで考えが広がります。それこそが写真におけるレイヤーがある説明にもなるのかなと思っています。
テラススクエア展示設営風景photo:Takashi Kato
ー 写真は瞬間と捉えられるものですが、河野さんにはある種のシークエンスであるということですか?
想像上のですね。もちろん写されて目に見えているものは瞬間的事実なのですが、鑑賞する側にしたらそれは汲み取るものでしかないですから。
ー そこには撮ってから見るまでの時間のラグも関係していますか?写真を見ることもそうですが、瞬間を撮ったり見たりしているはずなのに、それを見る自分も含めてあらかじめ時間軸の中に位置づけているところはありますよね。
メタ化してしまう癖はありますね。僕は撮ったあとの、誌面や作品、今回のような展示に落とし込む編集作業が好きで、その一連の流れの中に写真ならではの新たな発見があり、その時はある意味で僕も鑑賞者の一人となっているように思います。 シークエンスという意味では流れがある映画や映像が羨ましいと思うこともあるのですが、逆に写真をひとつの点として見れば、筋書きではないものを見る人に提示できるので、その空白の部分に写真の可能性を感じています。例えれば俳句みたいな感じですかね。イギリス人作家のポール・グラハム( Paul Graham )の「A Shimmer of Possibility」という写真集を書評したレベッカ・ベンガルという方が彼のその作品を俳句的だと評しているのを見て共感したからそう思うのですが。
テラススクエア展示風景photo:Takashi Kato
ー 俳句には文字数や季語があったり、そこにある間も含めて制約の中で表現する芸術だと思いますが、河野さんは俳句をどう定義づけていますか?
言葉とは別のものを提示するための便宜上の言葉、でしょうか。言葉にも写真にも見えるそのままの言葉通りの第一表層と、レイヤーとしての第二表層があるとして、僕がやっていることは、少なくても写真がもつ第一表層だけではないんです。
ー 言葉にも、こうは言ってはいるけどそうではない、ということもありますよね(笑)。
そうですね(笑)。第一表層はあくまでも第二表層への入口という機能さえ果たしていれば、極端な話、写ってるものはなんでもいいと思うことさえあります。映像はそこを写真よりは説明的にできちゃうんですよね。だからこそ写真は時に一面的には挑発的にとられかねないものも孕んでいるんですけど。写真のどこか暴力的なところはつねに意識はしています。
ー 写真の技術的なものはどこで身につけたのですか?
独学でやろうとしたのですが、その方が早いだろうと思って6年ほど写真スタジオに勤めました。その後写真家のアシスタントを4年ですね。
本展のために作家がデザインしたDM。展示作品とは異なるコラージュ作品。ー 映像はいつから?
アートフィルムや実験映画、MVは好きで観ていましたが、本格的にはアシスタント時代からです。編集や撮影をアシストしていたので、今もその時のスキルを活かしています。ただ、写真や映像をやっているというよりも、それらをツールとして「使っている」という感覚ですかね。
ー 使っている…。
はい。さっきの俳句の話でも出てきましたが写真や映像を使って第二、第三の別の次元にアクセスするという感覚です。それと同時に、現実とは。本物とは。みたいな物事の真理に問題意識を向けているように思います。
後編に続く(近日公開)。なお、本編となるインタビュー前後編が収録された作家制作によるハンドアウトを会場で配布中。100部限定。
Shota KONO
B 1984
2019 Exhibition「ある惑星 / A planet」(people)
https://shotakono.net
テキスト=加藤孝司 Takashi Kato
- テラススクエアフォトエキシビションVol.23 事実が存在し、単に潜在性または可能性だけではない
It does not include merely potential or possibility, it is actual - 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
- 開催日時: 2022年5月23日(月)〜2022年8月19日(金) / 8:00~20:00(最終日は18:30までとなります)
- 休館日: 土曜・日曜・祝日・年末年始 入場無料
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