それぞれの本との関わり
ー エマちゃんは本が好きなんですよね?
エマちゃん:はい。本が存在する景色が好きなんです。毎日のように本屋さんには必ず行きます。地元の駅前や自分の生活圏にいくつか本屋さんがあって、気分によって使い分けています。
ー ノリさんは神保町にお住まいなんですよね?
ノリさん:はい。15年ほど前に神保町に越してきました。神保町は本の街で本屋さんが今もたくさんありますが、多くの街は本屋が少なくなってきていると思います。 以前、上野毛に住んでいたことがあるのですが、家に帰る途中に小さな本屋さんが一軒しかなくて、たくさんの本を見ようとすると自由が丘、あるいは六本木に行くしかありませんでした。そんなこともあって神保町に引っ越してきたんです。
エマちゃん:ノリさんの「本愛」がすごいですね。私は本屋さんの利用の仕方はいくつかあると思っていて。 例えば自分の生活圏にあるいつもいく本屋さんは、毎日気軽に本と向き合うことができるし、神保町や六本木などの大きな本屋さんだったら、アートや漫画、専門書など、じっくり見たいときにわざわざ足を運ぶ。 その時々で本屋さんの役割を自分の中で変えて楽しんでいます。
ノリさん:最近でこそネットを調べればいろいろな本を探すことができますが、インターネットが普及する2000年前後までは、実際に本屋さんに足を運ばなければ、欲しい本に出合うことができませんでしたよね。
エマちゃん:本屋さんに足を運ぶと、出会うはずのなかった本を知ることができるから好きです。ネットだと、欲しい本を探すことだけに執着してしまいがち。両親が本好きだったこともあって、本とはとても近い関係でした。 こどもの頃、父を迎えに駅までよく行っていたのですが、待ち合わせ場所はいつも駅の近くの本屋さんでした。そうすると父がいつも一冊、本を買ってくれました。それは漫画でも雑誌でも小説でもなんでもよかったんです。 それ目当てで父のことを迎えに行っていました(笑)。幼い頃、父からお小遣いをもらった記憶はないのですが、本だけはなんでも買ってもらえる家でした。だから小学校1年生の頃から少女漫画の月刊誌などを毎月買ってもらうのが楽しみでした。
ノリさん:エマさんの家には本棚がたくさんありそうですね。
エマちゃん:はい。家の壁はほとんどが本棚です。こどもの頃は、自分の本をあまり持っていなかったので、私の部屋の本棚には母の本がたくさん置いてありました。 大人になってからその本棚にあったような本を読むようになって、自分の部屋の本棚にはずっと宝物が眠っていたんだ!宝箱だったんだ!と思うようになりました。
ー 宝箱とはいい響きですね。大人になって、そこにある豊かさに気づけるようになったのですね。
ノリさん:エマちゃんは羨ましい環境で育ったんですね。僕は地方に住んでいたので、日曜日になると父が車で街に連れていってくれて、街の大きな本屋さんに行くのがとても楽しみでした。 家には兄の文学全集や漫画がたくさんあって、最初はそれを読むようになって、本って楽しいなあと思うようになりました。
エマちゃん:上に兄弟がいるのは羨ましいです。私は弟がいるので、弟が私の本棚から本を見つけだして読んでいますね。私は感覚でサッサと本を読むのですが、弟は内容をじっくり読み込むタイプ。 弟から物語の神髄を教えてもらうことも多いです。「エヴァンゲリオン」も私は漫画派なのですが、好きなので何度も読んでいるのですが、あまり頭が追いついていかなくて…。 弟から内容を教えてもらって、へえとあらためて納得したり(笑)。男の人と女の人とでは本との向き合いかたも違う気がしています。それと男の人は収集癖がある気がする。
ノリさん:はい…(笑)。それでいつも奥さんからは怒られます。集め過ぎ注意です。
本の街に暮らすということ。
ー ノリさんが神保町に暮らしはじめたのも本がきっかけだったんですね。
ノリさん:はい。大阪の大学を卒業して就職で東京に出てきたのですが、最初は東京の西側に暮らしていました。 それである時ふと神保町のマンション情報を目にしました。それまでも本好きでしたので、神保町には本当によく来ていたのですが、まさか人が住める街だとは思ったことがなくって。それで引っ越してきてしまいました。
エマちゃん:確かに「神保町暮らし」と聞いて、最初は神保町に人が住む場所ってあったかしら?古書店の二階?とか思ってビックリしましたが、あらためて街を見渡してみるとマンションも結構あるんですね。
ー それこそ、出版社もたくさんありますよ。昔「ガロ」という伝説的な漫画雑誌があって、その出版社が神田錦町界隈にあって確かそんな古い建物の二階だったと思います。
ノリさん:その昔、有名な漫画家さんがガロの編集部に入り浸っていたと何かの本で読んだことがあります。
エマちゃん:うわ〜、そうなんですね。ガロ、大好きで今日も一冊持ってきました!
ノリさん:引っ越してきたあたりから、界隈にもいくつかマンションが建ちはじめていて、今では明大の崖の下あたりもマンション通りになりはじめています。 この界隈は一昔まえと比べると働く人だけでなく、飲食店も増えて、住む人が増えてきたという印象があります。 僕が住みはじめた当時は、すずらん通りも土日になると、シャッターを下ろしたお店も多くガランとしていました。 それがマンションが出来たり、オフィスビルが建ちはじめて、メディアでも取り上げられるようになって賑わいを取り戻してきたように思います。 かつては神田神保町のあたりは、古書とともに映画の街でもあったそうで、いつも大勢の人で賑わっていたと聞きました。自分もそうですが、今でもみんな本を求めてやってくるんだなあと思いました。
エマちゃん:私も高校生の頃から神保町にはよく来ています。今でこそモデルなどのお仕事で雑誌に載せてもらっていますが、当時から、雑誌の中に入りたい!と思っていました。 私にとって古書とは雑誌のことだと言っても過言ではありません。自分が生まれていなかった時代、知らなかった時代を知ることができるのが雑誌だと思っています。 特に「オリーブ」、「スタジオボイス」、「H」、「花椿」などの雑誌が好きで、貪るように見ていました(笑)。 当時はお金がなかったので、なかなか買えなかったのですが、神保町のお気に入りの本屋さんに一時間くらい居て、どっちの本を買おうかなあと悩んで買っていましたね。
それぞれの神保町の思い出話で盛り上がった前編ですが、後編では、それぞれ持ちよった思い出深い本について、そしてまち歩きやお散歩についてお話を伺っていきます。
<後編に続く>
店内撮影協力:夏目書房
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