「不確かさ」と対峙する美しいイメージ。
笠原颯太 インタビュー 前編
2021.5.18

テラススクエアフォトエキシビション vol.19
Souta Kasahara 『can’t see well when I hug』 インタビュー<前編>

テラススクエアフォトエキシビションVol.19では、笠原颯太の写真展を開催します。ensembleでは、エキシビションスタート間近の作家に話を聞いた。作品制作の記録写真とともに、初めて明らかにされる作品とその背景を巡る言葉を通じ、写真家の知られざる創作の背景にせまるインタビューです。

ー 写真との出合いを教えてください

広い意味での写真ということですと、多くの人たちと同じように家族に「撮られる」という経験が最も古い写真の記憶です。アート写真や表現写真ということであれば、高校生のときに渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムでみた『ソール・ライター展 ニューヨークが生んだ伝説』だと記憶しています。

ー 写真のどのようなところに魅力を感じましたか?

今現在まで続けられていることの要因としては、絵や彫刻などと比較して写真はボタンを押せば画像がつくれるということだと思います。
私個人としては小さい頃から機械が好きでした。今はそうではありませんが当時は写真表現ということに対する魅力より、機械としてのカメラを面白がっていたと思います。今はレンズ越しに対象を見ることで生まれる、ある種の批評的な眼差しを持ったメディアであることが写真の魅力であると思っています。

ー 最初に撮ったものを憶えていますか?

あまり覚えていません。特別なものは撮っていなかったと思います。ですが、かなり幼少期からカメラを持ち歩いていて、小学校の遠足や家族旅行のときには旅先の風景など撮っていました。
2年前に私が撮影した3つ年下の妹の七五三の写真を見つけました。幼少の私はとにかくカメラという機械を使いたいという気持ちだけで写真を撮っていたのだと思います。

ー 当時はどのようなカメラで撮影していたのですか?

両親から譲り受けたCanonのコンデジです。

Souta Kasahara 『can’t see well when I hug』

ー 笠原さんは最初からデジカメが世の中にある世代ですね。僕は撮ってすぐに美しい液晶画面で写真が見られるのは驚きでしたが。

はい。ただ家族や友達を撮るにはその頃の私は照れ屋だったので、意識的に人を立たせてポートレート写真を撮ることはしていませんでした。

ー 作品としての写真を意識したのはいつですか?それはなぜでしょうか?

高校3年生ぐらいの時だったと思います。きっかけは先ほどお話したライター展がきっかけで、単純に作品として成り立っている写真を鑑賞したからです。
高校に上がった頃からは一眼レフで撮影した写真を他人に褒められることも多くなり、写真を撮影できる能力が自分のアイデンティティの一部として機能していました。その事もあってカメラではなく写真が好きになり、意識的に「写真」を見るようになりました。
でも当時はあまりピンとはきてはいませんでしたが、とにかく評価されている写真を見ようという気持ちで篠山紀信、荒木経惟、ソール・ライター等の巨匠の写真を見ていました。

ー 最近ではデジタルに加えて昔ながらのフィルムで写真を撮る人が増えています。先程最初に手にしたカメラはデジタルというお話がありましたが笠原さんはどうですか?

私自身もデジタルカメラはもちろんフィルムカメラも使っています。私達の世代もある意味ではフィルム世代だと思っています。ただ私の感覚としては、同世代の写真を撮っている多くの人たちと同様、フィルムカメラを使用することをスマートホンの写真アプリの中のひとつのフィルターのように捉えているところがあると思います。私自身はフィルムカメラを使用してもそれをデジタルカメラで撮影した画像とほぼ同じ温度で扱っています。なので、フィルムとデジタルを混ぜて作品をつくることもあります。
ですがフィルムはコストも手間もかかるのであまり好きではありません。それとネガではいい意味でも悪い意味でも人の体温みたいなものが出やすいので、現在は基本的にデジタルカメラで撮影をしています。フィルムを使用する際にはポジで撮ったものをデジタルスキャンする手法をとっています。フィルムカメラを使う理由として撮影のリズムづくりという面が大きいです。

“image study (2020)” Musashino art university, 13-14 January,2021 (Not open to the public)

ー 写真以外の芸術ではどのようなものに興味がありますか?

絵画が好きです。写真をはじめる以前から西洋の芸術に興味がありました。最初はテレビの深夜番組で放送されているような旅番組がきっかけでした。
番組の中で西洋の教会や大聖堂などが紹介されているのを見て、西洋の建築、主に歴史的な建造物が好きになりました。その辺りから徐々に西洋絵画なども見るようになりました。
一番記憶に残っているのは、中学生の時ですが、美術のレポートを書くために国立西洋美術館へ行ったことです。

ー そのような絵画と写真との違いはどのように感じていましたか?

写真は写っているものが現実である場合が多いこともあって、余りにも直接的なインスピレーションを受けてしまう側面があると思っています。
これは個人的な感覚や表現かもしれませんが、西洋を中心とする絵画からは「画面」的なインスピレーションを受けています。なかでもルネッサンスを代表するラファエロ、19世紀フランスの画家であるポール・ドラローシュ、19世紀前半のフランスの新古典主義の画家ドミニク・アングル、同じく19世紀フランスの画家で神話をモチーフに天使や少女の絵画を多く残したウィリアム・アドルフ・ブグローなど、アカデミック美術や写実主義的な絵画が好きです。絵のいいところはきちんと質量があって物質としてそこに存在することができるところだと思っています。私も「在る」だけで成り立つそんな写真を撮りたいと思っています。

ー 写真作品で影響を受けた作品や作家を教えてください。

いろんな写真家に複合的に影響を受けました。最初に述べたように機械としてのカメラへの興味から始まったので、最初の頃はとことんいろんな写真家の真似をしていました。

テストピースを前に色調などを確認する(プリント制作:フォトグラファーズラボラトリー)

ー それは具体的にどのような方法でしたか?

たとえば、気になる作家と同じ機材やフィルムを使ったり、その作家に特徴的な編集で写真を撮ってみたりして遊んでいました。
その作業の中で特定の作家への興味やその作品を越えて、作家それぞれのあり方の「違い」に惹かれていくようになりました。
そこから自分なら写真で何をするのか、それを考えるようになりました。これは私たちのようなインターネット世代の多くの人に言える事だと思いますが、かなり複合的、複雑に境目がなくあらゆるものに影響を受けていると思っています。
これまで写真を作っていく中で、現在進行形の写真を私は主にインスタグラムによって知りました。インターネットで篠山さんや荒木さんらの写真を見ている隣のタブを開けば、若い世代で活躍されている青木柊野さんや石田真澄さんといった方の写真を見ている。さらにその隣のタブではルーブル美術館のアーカイブを開いていたりします。
好きな写真家は?と聞かれたらChad moore(チャド・ムーア)と答えています。写真集で言うとパリを拠点とする写真家のVincent Ferrane(ヴァンサン・フェラーネ)の『Milky way』と、篠山さんの『少女館 篠山紀信』が好きです。

ー 僕はインスタグラムで笠原さんの作品と出合いましたが、これまで作品はどのようなメディアで発表してきましたか?笠原さんの世代ならではの作品発表の形態にはどのようなものがありますか?そしてそれらの可能性についても笠原さんが考えていることを教えてください。

僕にとっては完全にインスタグラムです(@souta.kasahara)。インスタグラムは最も手軽で最も多くの人に伝える手段だと思います。なぜなら私のような若い世代においては作品を多くの大人の方に見てもらうことが重要だと思っているからです。

ー やはりインスタグラムなんですね。

はい。大学に入ってからはとにかくいろんな発信を試していました。ですが、皆さんの目に止まっていないということは、どれも発信力の点ではインスタグラムに劣るんだと思います。例えば、都内のレンタルギャラリーで開催したグループ展では友人たちにひとつの写真の完成形を見せることはできましたが、発信力としては友人の友人に伝えるのが限界でした。それでも展示を作るということがとてもいい勉強になりましたが。
それから大学の芸術祭等でひっそりZINEを売った事もありました。リアルで作品を見てもらってできるコネクションはとても強いのでそこから撮影のお誘いをいただくこともありました。
ちょうど今年2月に、4年生になる前の進級制作展というのがありまして、そこでは大きなホワイトキューブの会場で美術館的な展示形態を試すことができました。
今後は作品発表の形態として、できるだけ展示に力を入れていきたいです。今は「在るだけで成り立つ」、そんな写真というものを目標のひとつににしているので実寸で見てよかったと思える展示作りをしていきたいです。

Souta Kasahara 『suggest』(2019)

ー いろいろみてみせていただきたいですね。

ありがとうございます。同じ理由でプリントの制作も並行して行っていくつもりです。展示では今回のテラススクエアに加えて、今年中に画家の友人と一緒に二人展を企画しています。展示には視覚を超えた身体感覚としての可能性があります。絵の前で写真はどう機能するのか、それとは逆に写真の前で絵はどう機能するのか、体感として私自身が感じてみたいのです。ぜひ注目していていただきたいです。

ー 後編に続く ー

笠原颯太 Souta Kasahara
1999年生まれ。武蔵野美術大学在学
カメラを使用した美しいイメージの作成を基盤に作品を制作している。
@souta.kasahara

テキスト、作家ポートレート撮影=加藤孝司 Takashi Kato

  • テラススクエアフォトエキシビションVol.19「笠原颯太 can’t see well when I hug」
  • 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
  • 開催日時: 2021年5月24日(月)〜2021年8月20日(金) / 8:00~20:00
  • 休館日: 土曜・日曜・祝日 入場無料
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