ポートレート写真の現在地。
「見るまえに跳べ」
2023.11.03

今回で20回目を迎えた日本の新進作家展。魅力的なコンセプトで開催のたびに新しい写真と写真家との出合いをもたらし、丁寧な展示構成で発信してきた。
見るまえに跳べは、「日本のポートレート写真の現在地」をみることができる展示である点が印象に残った。

入口から展示順に、上野公園を訪れた人たちの親密で濃密なポートレートは<淵上裕太>の作品。圧倒的な写真による「壁」が目の前に迫ってくる展示構成。筆者にとっては見慣れた場所での光景のはずだが、何かが違う。そこに映し出されているのは日常の中で見過ごされてしまう、今にも壊れてしまいそうな儚くもせつない人々の繊細な営みだ。
その展示室の隣は<夢無子 mumuko>によるインスタレーション作品。鮮烈なイメージが扇動的な言葉とともに巨大なブーケの内側のスクリーンに投影される。
暗闇の中で作品と向き合わせるのは<山上新平>。ライトで浮かび上がるのは高コントラストで丹精な写真作品。みる者の心を瞑想的な世界へと導く触媒のような思索的な作品群。<星玄人>は20数年にわたる夜を中心とした路上のスナップ。人間の生き様を鮮やかに提示し、見る者の目を捉えて離さない。海外でも評価の高い<うつゆみこ>の作品は、複雑で奇怪にもみえる世界線を鮮やかな手捌きで創造し、写真ならではの瞬間を掴み取る特性でそれを一瞬の中に封じ込め写真の上に刻んでいる。

本展で感じるのは写真はかくも多様なものであるということ。それをみる者が、感じたい、あるいは他者と己の内面を読み取りたいという思いを失うことがなければ、目の前に広がる世界には限界はなく、いつの時代においても霞むことなくとどめることができることを証明している。
それはみるだけでなく、撮ること(撮る側)においても同じことが言えるだろう。日常に対峙することは肯定的であれ否定的であれ、その時そこにある日常を受け入れることだろう。
目に見えない何ものかに意識的に挑んでいるようにみえるこれらの作品から、半透明ながらも確かな何ものかが浮かび上がってくるようだ。

Tokyo Photographic Art Museum「見るまえに跳べ」星玄人氏

Tokyo Photographic Art Museum「見るまえに跳べ」うつゆみこ展示風景

The Japanese emerging artist exhibition, which has reached its 20th edition, brings new encounters between photographers and their captivating concepts, showcasing their work in meticulous exhibition arrangements.

It is an exhibition where you can see the “current location of Japanese portrait photos”.

What I feel at this exhibition is that photography is diverse. It proves that there is no limit to the world that spreads in front of you unless the person who sees the photo loses the desire to feel or to read inside himself with others.

Facing everyday life, whether positive or negative, is to accept everyday life.

Tokyo Photographic Art Museum「見るまえに跳べ」山上新平氏

テキスト、会場写真=加藤孝司 Takashi Kato

  • 「見るまえに跳べ 日本の新進写真家vol.20」
  • 東京都写真美術館 3F展示室
  • 開催期間:2023年10月27日(金)~2024年1月21日(日)
  • 時間:10:00~18:00(木曜・金曜は20:00まで、入館は閉館時間の30分前まで)
  • 休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館)
  • 料金:一般 700円/学生 560円/中高生・65歳以上 350円
  • topmuseum.jp
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