おみゆさんの純喫茶案内(後編)
2017.6.15

珈琲の深く濃い香りと甘いパフェの誘惑。誰にも邪魔されないゆったりとした時間の流れる自分だけのひととき。昔ながらの喫茶店にはなぜか心やすまる居心地のよさがある。 それはそこに流れる音楽や、集う人たちの会話とともに、時間をつみかさね場所が築き上げられてつくられてきたものだろう。喫茶愛に溢れる小谷実由さんとともに歩く神田錦町界隈喫茶案内。 後編は小谷さんが思う喫茶店について、さらに深くお話を伺った。

喫茶店にはドキドキがある

ー 世の中ではサードウェーブコーヒーに人気が集まり、今風のカフェやファミレスに行く人も多いと思いますが、それらと喫茶店の最大の違いってどんなところだと思いますか?

ひとつはお客さんの年齢の幅が広いところです。お年寄りも若い人も同じ空間に自然体で居られて、普段普通に生活をしていたら絶対に出会えないような人にも出会えたり。 それがものすごくインスピレーションになっています。それとテレビドラマやドキュメンタリーでしかみたことがなかった世界が、本当に隣の席で繰り広げられていたり(笑)。カップルが喧嘩していたり、テーブルごとに濃密なドラマがあったりすることですね。 それがすべてリアルで、ドラマやテレビをみているよりも刺激になります。ですので、喫茶店では人間観察をするのも楽しいです。

ー 土地柄もありますよね。

そうなんです!場所によって客層も全然違いますよね。同じまちでもエリアや時間によっても違いますし、喫茶店にいるだけでドキドキします。

ー なんかわかりますね(笑)。おみゆさんはいつもどんなメニューを頼みますか?

必ず頼むというものはなくて、でもここのグラスが好きだなあ、というのがあるお店だったらクリームソーダを頼むとか、ちょっとしたこだわりはあります。 それ以外はご飯を食べたあとだったら珈琲、みたいにその時々ですね。たまに、これ絶対食べきれない!という山盛りのパフェがあったりして、友達とそれを食べるだけでもワクワクしたりすることがあります。

ー 時に冒険心をもってオーダーをしたり?

はい。サラリーマンの方が多いお店だと、梅昆布茶があったりして、わっ、これはほかのお店にはない!と思うようなメニューに出合ったら、とりあえずそれを頼むこともあります。

おみゆさんの純喫茶案内

ー 今まで行ったことのないお店に入るときはどんな時ですか?まちを歩いていて直感で入ることもあるんですか?

勘は少しこわいので、喫茶店に詳しい人の話を聞いたり、とりあえず内装をチェックして好みだったら入ります。

ー 喫茶と純喫茶って言い方がありますが、その違いってどう思っていますか?

純喫茶はお酒を出さないという意味があるんですが、単純に文字面が良いですよね。「純喫茶準備室」という名前にしたのは、響きがかわいいと思ったからです。 準備室とつけたのは、みんなに喫茶店に行く準備をしてもらいたいと思ったからです。構想では架空の喫茶店を作るというアイデアもありましたが、古さが魅力なのに、今から新しく作るのもコンセプト的に違うと思ってやめました。 では、この企画をどうしてやりたいと思ったかというと、私のインスタグラムや活動をみてくださっている方たちから、「喫茶店に行きました」というコメントをいただくことがあって、そういう方が、もっとたくさん増えて欲しいと思ったからです。

ー そう思ったきっかけは何だったのですか?

喫茶店がまちからなくなっていっている現実をみてからでした。純粋に大好きな場所がなくなってしまうのって淋しいじゃないですか。だから喫茶店に行く人が今よりも増えてくれたら嬉しいなあと思いました。

ー 確かに、昔からあったお店や建物がなくなっていくのは、自分の記憶や思い出がなくなってしまうようで淋しいことでもありますね。

だから、世の中にある喫茶店のために、微力ながら何かできればと思っているんです。どこそこの「喫茶店が閉店した」という話を聞くたびに、自分が行かなかったからだと思うことがあります……。 このあいだ前を通ったのに、なんで入らなかったんだろうとか、もし入っていれば、もう少し長くお店が存続できたんじゃないかとか。考えすぎかもしれませんが、時々そんな風に思うことがあります。 でも、喫茶店のよさを伝えるには、私はまだまだそんなに多くの喫茶店には行けていませんし、私なりのやり方で喫茶店を知ってもらう方法があるんじゃないかと思って。 それで好きなファッションやカルチャーに落とし込んで広げていくということをしていきたいと思いました。

おみゆさんの純喫茶案内

ー それはピッタリなアイデアですね。もともと喫茶店に興味があった人だけでなく、ファッションやカルチャーの切り口から喫茶店に興味を持つ人が増えたら素敵ですね。

そうやって自然に広めて行けたら嬉しいですね。場所も東京だけでなく、大阪や京都、名古屋にも行ってみたい喫茶店はたくさんあるんですよ。

ー そういった意味では東京の下町にも濃い喫茶店がたくさんありますよね。

そうなんです!下町にある常連さんしかいないようなお店にも、勇気を出していつかはチャレンジしてみたいです……。

ー 今日歩いていただいた神田錦町エリアは老舗喫茶店がたくさんあることで知られていますが、これまでいらしたことはありますか?

あります、あります。私、本がとても好きでよく古本屋さんめぐりをしに神保町界隈にはふらりと訪れます。喫茶店にも行きますよ。 ラドリオ、エリカ、さぼうるにはよく行きます。まだまだ知らいないお店もあると思うので、ぶらぶらしながら神田錦町界隈のマニアックな喫茶店を探してみたいですね。

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時間をかけて愛されてきたもの

ー まちは今再開発で活気があふれていますので、神田錦町界隈にある古い喫茶店にもたくさん行ってみてください!

ぜひ!古い喫茶店は目を光らせていないとなくなってしまうことが あるので、いろいろと行ってみたいんです。ここ数年だと新宿の花園神社の近くにあった沙婆裸というお気に入りの喫茶店がなくなってしまって。 その時も閉店する直前にお店の前を通っていながら入らなくて、ある日、前を通った時にはビルごと取り壊されていました。喫茶店の閉店にはまさに「予兆」がないんです。最近は喫茶店の跡継ぎ問題を考えることも多いです。

ー 跡継ぎ問題ですか??

はい。腰が曲がったおばあちゃんが一人でお店を切り盛りしているのをみたりすると、こんな素敵なお店なのに跡継ぎがいるのかなと心配になってしまいます。 だから、たまに息子さんやお孫さんのような方が、お店をお手伝いしているのをみると少し安心します。 そういった意味では、私のインスタグラムや純喫茶準備室の活動で、喫茶店の魅力に気づいてくれた人が、お気に入りのお店の常連さんになって跡継ぎになるという、そういう可能性もゼロではないと思ったりしています。

ー それはいいですね!それと喫茶店の楽しみ方として、喫茶店めぐりはお散歩とセットになっているところもありますよね?

そうだと思います。まちをぶらぶら歩いていて、なんか気になる喫茶店を発見してみたり。中に入らなくてもこんなお店があるんだという発見があると思います。 雑誌をみて初めてのお店を知ることももちろんだけど、偶然自分だけのお店を発見する楽しみもお散歩にはあると思います。そういった意味では、皆さんにこんな喫茶店があるよって教えてもらいたいですね。 インスタグラムに「喫茶部」というハッシュタグがあって、私もそれを辿って喫茶店を探したり、そのハッシュタグをつけて行った喫茶店の写真を投稿したりしています。

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ー おみゆさんが喫茶店に行く時に、必ず持っていくものってありますか?

本とノートとペンは必ず持っていきます。ノートには思ったことや、その時の気持ちを書いたり、あとは人間観察をしてその記録を書いたりしています。 スマホのメモじゃなく、手書きをすることは、あとから読み返したときに、その時の思いの熱量が感じられるのでおすすめです。

ー 喫茶店に関して今度どんな活動をしていきたいですか?

友達や知っている人をイメージしながら、このコあのお店に合いそう!と考えたりするのが好きです。 そうしたら、行動ありきで、絶対に好きだから行くべき!と勝手に決めて連れていっては、「やっぱり似合う〜」とニヤニヤしながら楽しんでいるだけなのですが(笑)。 でも、それがきっかけで、「初めて来たけど、なんか好き」と友達に言ってもらえたらそれだけで嬉しいです。これは純喫茶準備室を初めた理由のひとつでもありますが、やはり女のコがいきなり一人で知らない喫茶店に入るのは勇気がいることだと思うんです。 だから、喫茶店に行く準備としてつくった洋服もそうですが、私自身が誰かが喫茶店に行くためのきっかけになりたいと思っているんです。

ー 素晴らしい活動ですね!最後に、喫茶店への思いを聞かせてください。

現代では、使い捨て、簡単、便利などが氾濫しています。もちろん私たちはそれに助けられている部分もありますが、でも、何をするにしても、手をかけて、時間をかけたという思いは大切にしたいといつも思っています。 そして、これからもずっと喫茶店があって欲しいという思いが一番です。生まれてきてから、場所に対してこんなに好きという気持ちを抱いたことってありませんでした。 さまざまな新しい技術が生まれていく中にあっても、たくさんの長い時間を積み重ねて作られてきた、歴史をもったものって、どんなハイテク技術でも簡単には再現出来ないものだと思うんです。 長く続いている喫茶店は、その時間の分だけお客様に愛されてきたもので、いろんな人の思いが込められています。それだけ喫茶店は貴重なものなんです。だからまちの喫茶店全部が文化財になったらいいなあと思っています。

ー 今日はどうもありがとうございました!

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