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モデルやアーティストとして活躍する前田エマさんと、テレビでよく目にするCMを手がけるCMディレクターの鈴木則彦さんは、お互いをエマちゃん、ノリちゃんと呼び合う友人同士です。 前編では、本との出合いや古書街に暮らすことについてお話を伺いました。後編では、本や街がもたらす効能にまで話がおよびます。今回も2人の本と街を巡る対話をお楽しみください。
<前編はこちら>
本は失われた記憶を呼び戻してくれる装置
ー 今日持ってきていただいた本を見せてください。
エマちゃん:ぜひぜひ。まずはスタジオボイスの写真特集号です。 90年代のものなのですが、現在は大御所になっている写真家やその作品が「今、現在」の作品として紹介されています。その時の新しさや感動している気持ちが詰まっていて、今とは違う視点が面白いと思ってみています。 それと誌面から雑誌がパワフルだった90年代という時代性が伝わってきます。もう一冊、写真家のホンマタカシさん編集の「ウラH ホンマカメラ」。すごくユニークな、ちょっとふざけた雑誌です。 それを真面目にいろんな人がやっていて、今の時代ではなかなかできないなあと感じます。それと漫画雑誌「ガロ」も持ってきました。私、すごく変なオジさんがいて、そのオジさんの本棚に、ガロがあって。 ちいさな頃って、こういう雑誌っていかがわしいものだと思うじゃないですか(笑)。こっそり読んでいましたね。 これは古本屋さんで見つけて買ったものですが、白土三平さんの「カムイ伝」と、水木しげるさんの「鬼太郎」が乗っているんです。 漫画雑誌の面白さは、漫画家の方たちが、一冊の雑誌でしのぎを削って、楽しい漫画を作ろうと奮闘していることもそのひとつです。 少年ジャンプも大好きで、「ナルト」と「ワンピース」が同時期に連載されていたときには、二人の作家が切磋琢磨しながらある一つの時代をつくってきたのが感じられて、それを考えただけで、今でも興奮します!
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ノリさん:僕も漫画雑誌は好きです。 こどもの頃に読んでいた本は忘れていることが多いのですが、神保町の古書店を回っていて、ふと目に止まった漫画雑誌なんかをみると、昔読んでいた本だと思って、忘れていた記憶がふっと蘇ってくることがよくあります。 それは古書や古書店巡りの良さだなあと思っています。神保町に越してくるまでは、2年に一度引っ越しを繰り返していました。 そのたびごとに本を処分していたので、神保町という街には誰にとってもひとつやふたつはある、忘れてしまったけど大切にしていた記憶を呼び覚ましてくれるところがあるんじゃないかなあと思っています。
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ー おっしゃる通りですね。
ノリさん:はい。自分は処分してしまったけど、神保町にはそれが残っているんだと思うとなんか安心します。
ー いいお話ですね。そう考えると神保町という街もそうですが、街自体が、多くの人にとって記憶の外部ハードディスクのような役割をもっているのかもしれませんね。 そこに訪れると昔の自分に出会える、あるいは自分の知らない過去のことだけど、新しいものとして出会えるというか。 確か第二次世界大戦で神保町が大きな空襲を免れたのは、街のそんな記憶装置としての役割があったからだと聞いたことがあります。ノリさん、本をご紹介いただいてもいいですか?
ノリさん:はい。一冊目は10年くらい前に神保町で買った「欧州スクーター旅行記」という本です。 1950年代に書かれた本で読み物としても面白くて、当時撮られたヨーロッパの街角風景の写真もいいんですよね。 スクーターメーカーのドキュメンタリーとして著されたもののようですが、僕もバイクに乗りますし、ページをめくるたびにロードムービーのように風景が浮かんでくる本です。あと映画が好きで、映画の本もたくさん集めています。
エマちゃん:母がノリさんと同い歳で、母の本棚にも同じような本がたくさん並んでいます。映画好きな人なんです。
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本はロードムービーだ
ノリさん:1980年代はいいロードムービーがたくさん映画館でロードショーされていて、PCの小さなモニターではなく、映画館の大きなスクリーンでみることができた時代でした。 だから、アメリカの荒野やヨーロッパの田舎町をその場に行ったかのような気分でみることができました。いまはそんな映画を流していた、六本木のシネヴィヴァンや渋谷のシネマライズもなくなってしまいました。 今では映画館でもみる機会が少なくなってしまった映画について書かれた本は、ついつい買ってしまいます。それと動物の本も好きで、仕事柄資料のために買ったりしています。
エマちゃん:古本って背表紙の裏に値段がシールで貼ってあって、価値の変化にドキッとします。この動物の本って、ものすごく高いんですね(笑)
ノリさん:そうですね(笑)、それと浅井慎平さんの写真が好きで見つけると持っていても同じものを買ってしまいます。
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エマちゃん:「サンデーモーニング」に出ている方ですね。以前、浅井さんが撮った波の写真を見たことがあって、ものすごくいいなあと思ったことがあります。
ノリさん:最近はテレビ番組のコメンテーターなどでも活躍されていますが、昔のモノクロ作品がものすごく好きなんですよね。グアムで撮影した普通の市民の休日を映した写真がとてもいいんですよ。
ー 神保町はご近所ですし、本はふらっと買いに行くことが多いんですか?
ノリさん:そうですね。この街に住んでいながら、ふらっと神保町に行ってくるね、と出かけることが多いですね。
ー エマちゃんは、ノリさんのコレクションをみていかがですか?
エマちゃん:全部可愛かったです。私がもってきたものの方が可愛さがあまりないですね(笑)。 私は浅井慎平さんのモノクロ写真をはじめてみたのですが、すごく気に入りました。高校生の頃、夢中になってみていた高橋ヨーコさんの写真集に少し通じているところがあるような、温かいのにどこか冷めている感じに惹かれます。
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ー エマちゃんも写真を撮っていますが、そういった視点で本をみることはありますか?
エマちゃん:写真を撮っているときに、昔どこかでみたイメージがふと思い浮かぶことはあります。モデルの仕事で服をコーディネートするときにも、以前本の中でみたイメージがふと降りてくることはよくあります。
ー 確かに本から得るものって多いですよね。
エマちゃん:それはものすごくあると思います。良くも悪くも、どれくらいモノをみているかは、いろいろな部分に影響してきますね。
ー ノリさんの映像のお仕事にも本から影響はありますか?
ノリさん:映像は動く画ですが、基本は写真など静止画に近いところがあります。 ですのでシーンの参考となりそうな写真やビジュアルは、デザイナーの方も一緒だと思うのですが、気になる本は仕事柄本棚にストックしておきたいというところもあってついつい買ってしまうんです。
エマちゃん:私も何かモノをつくる時は、画集や写真集をばーっとたくさんみます。文章を書く時も、尊敬する作家の本を机の上に並べておいたりします。
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ー ノリさんはどういったきっかけで映像の仕事をするようになったのですか?
ノリさん:本も好きでしたが、小学生の頃からテレビで毎日映画をみるのが好きで、夕方に放映されていたアニメも好きでよくみていました。 それで中学、高校とさらに凝った映像作品をみるようになって、そんな影響もあったのだと思います。自分でも将来映像に関わる仕事をしたいと思うようになり、この世界に入りました。
ー エマちゃんは今、アーティストやモデルとして活動されていますが、今後どんなことをしていきたいですか?
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エマちゃん:今は私の活動を理解してくださる事務所に出会うことができて、それがたまたまモデル事務所でした。 アーティストやモデルと言われることに、どちらもまだ自分の中ではしっくりこないところがあります。だけど今はそれでいいと思っています。 もともと喋るのが大好きで、人に何かを伝えたいという思いからこの世界に入りました。これからはそういうところをもっと出していけるようにしたいです。あと、動いているところ、喋っているところを見せていきたい。
ー それは楽しみですね!今日のテーマは”本”と”散歩”でしたが、散歩はお好きですか?
ノリさん:今日もそうですが、カメラを持ってよくお散歩をしています。散歩はちいさな「ロードムービー」ですよね。 東京は特に変化が激しい街ですから、新しいお店に出合ったりするのに歩くスピードはちょうどいいと思います。 この界隈ですと、大好きな古書店や、雰囲気のいいコーヒー屋さんも多いですし、秋葉原のちょっと近未来的な風景や、九段の方に足を伸ばせばどこか昭和な風景が広がっているところも気に入っています。 このエリアはお散歩するのにとても楽しい街だと思います。
エマちゃん:私も歩くことが大好きで、毎日1万歩くらい歩いています。私は妄想癖があって、歩いているときが一番妄想できるんです(笑)。 歩きながらあんなことしよう、こんなことしようと考えるのが好きです。カメラは大抵、持ち歩いているので、お散歩中に撮ったりもします。
ー お二人それぞれの本について、そしてお仕事についていろいろ聞かせていただき今日は楽しかったです。また次回のお散歩もよろしくお願いします!
店内撮影協力:夏目書房
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