井崎竜太朗 インタビュー
テラススクエアフォトエキシビション vol.18 井崎竜太朗 インタビュー
神田錦町にあるテラススクエアのエントランスで行われる「テラススクエアフォトエキシビション」は、写真を「見る」という関係性に問いを投げかけ、写真との新しい向き合い方を提案するエキシビションです。 テラススクエアフォトエキシビションVol.18では、井崎竜太朗の写真展を開催します。ensembleでは、エキシビションスタート間近の作家にインタビューを行った。作品とその背景を巡る言葉を通じ、写真家のイメージにせまります。
ー 写真を始めたのはいつですか?
福岡に住んでいたときで20歳くらいのときです。当時は漫画と音楽が好きでした。
ー 何かきっかけがあったのでしょうか?
当時自分がいた福岡の中心部はコンパクトシティで、世代に関係なくすぐにつながって連鎖していくコミュニティがありました。そしてまわりにいるほとんどの人が音楽好きで。ライブハウスやクラブでいろんな人と情報やカルチャーを共有するのがとても楽しかったです。
いつの日かそのような日々や人もいつかは消えていったり忘れていくと悲しくなったときにカメラを手にした記憶があります。ネットや本でスケートカルチャーに触れていた時期だったこともあり、フィルムカメラを使いはじめました。
ー 最初からフィルムカメラだったんですね
はい。外見の好みで最初に選んだカメラはコンタックスTVSでした。
ー 当時はどのような写真を撮っていましたか?
まわりにいた友達の日常的なポートレートを撮っていました。生活にカメラが馴染んでからは水辺、山、高い場所が好きで遊びに行ってはその光景をおさめることが多くなりました。とくに親友二人と行動をともにすることが多かったのですが、僕だけが遊びついでにいつも写真を撮っているという感じでした。ときがたつにつれ、非日常な写真を無意識に集めるようになりました。初期のころから縦構図ばかりで、フレーミングや捉える角度に関してはずっと変わらないものがあります。一枚画のなかにおさめる色数などもほぼ変わっていません。
ー 写真のどのようなところに面白さを感じましたか?
内心としては、ずっと何かをつくる人に憧れていました。ですが小さいころから絵を描いてもクラスにはもっと上手な人がいたり、ファッションが好きでもそれをかたちにしたり表現できるのかは分からない、DJをしてもアーティストが誠意を込めて制作したものを二次的に使用させてもらっているという感覚を持ち続けていました。そのようにいろいろと試してはきましたが写真だけはストレスなく続けることができたんです。写真では自己表現ができているという感覚を味わうことができたのも大きかったです。
ー 写真に関して影響を受けたのはどのようなことですか?
映画でしたらジム・ジャームッシュやクリストファー・ノーラン、岩井俊二監督の作品などに色や質感、世界観などは影響を受けたと思います。
パリの音楽レーベルである”Roche Musique”に所属するアーティストや楽曲、アートワークからもインスピレーションを多く得ていた記憶があります。
ー 福岡にいるころはどのような写真活動をしていましたか?
写真を撮って、SNSにアップすることしかしていませんでした。福岡は当時、ギャラリーも多くなくて、美術館も少ないので実物に触れる感覚は日常の中にはほとんどありませんでした。周りの同世代にも作家的な人物、写真家などには出会えませんでした。
ー 東京に活動拠点を移したのは何年ですか?何かきっかけがあったのでしょうか?
2016年の4月です。大学を卒業して、バイトで稼いだ貯金とスーツケース一つで上京しました。理由としては、写真を職業にするためにというわけではありません。東京の街で、より多くの展示や音楽などを見たり聞いたりしてみたいという単純な好奇心が行動させた記憶があります。
ー 井崎さんにとって写真家として活動をしていく上で東京はどんな場所ですか?
東京を拠点にして今年で5年目なのでまだ未知なことばかりです。ただ、人との出会いに関しては現時点でも東京という街で恵まれたと実感しています。仕事や展示、出版など今までに為せたこと全てについて、出会えた人のおかげだと思っています。
ー 作品集「Time machine」(2019 July)をつくった頃のことを教えてください。
東京に活動の拠点を移して少しずつ写真のお仕事をいただけるようになり、撮影とバイトを繰り返す毎日でした。何か新しいアプローチをしたい、もっと自身の活動を広めていくためには?と悶々とする毎日でもありました。
ー 作品集としてまとめたのは「Time machine」が初めてですか?
『BLUE SEA I’ve SEEN』というZINEを2018年に30部限定で制作しました(現在は完売)。”Opus Inn”というアーティストと共同で制作しました。内容は彼らの1stアルバムである『Time Gone By』という作品の音やリリックからイメージをして写真を撮り下ろしました。ZINEにはデザインを担当したAyano Imai さんのグラフィックも入っていて、アーティストブックとしてよい仕上がりになりました。
ー 僕にとっての井崎さんの作品との出合いが「Time machine」だったのですが、作品をまとめようと思ったきっかけを教えてください。
写真を始めて5年目のころになるのですが、写真集をだすタイミングを見計らっていました。ちょうどそのころに表参道ROCKETさんから展示のお誘いをいただき、よいタイミングだと思い制作することを決めました。初の写真集ということで代名詞となるような、かつ時が経過して未来の自分が見ても何かしらの新しい感情を喚起させたり、みるたびに新しい発見ができるようなものにしたいと思いました。見る人それぞれが違う汲み取り方ができるように、表現に余白を設けることも意識しました。
ー デザインは僕も注目しているアートディレクターでアーティストの星加陸さんが手がけていますね。
写真集制作以前から彼の制作はネットで見ていて、センスの良さに感動していました。偶然にも、2018年に”STEPHENSMITH”というアーティストの『ESSAY』というアルバムで僕が写真、星加君がアートディレクションとデザインを担当することになり、その共同作業を行っている途中で写真集を作るときはお願いしたいとオファーした経緯がありました。
ー ディレクションをあえて他者に委ねた理由は?
自分の力量だけで賄えるものが100%とした場合、信頼できる人物がもう一人でもいると200%、300%になると信じています。あとは、自分でできないことは誰か得意な人に任せたい、という性格もあるかもしれないです。
ー なるほど。コレボレーションをしてよかったのはどんなことですか?
これは星加くんだからだと思うのですが、自分の頭のなかにある大まかなストーリーや理想をしっかりと具現化してくれたことです。写真や表現の微かなニュアンスからもうまく抽出してくれた上で、星加君なりの解釈で構成を立ててくれたことにも満足をしています。
ー 写真家という存在を思うときに僕はその作家の作風というものをつねに考えます。井崎さんにとって現在の作風はこの頃に確立されたように感じますがいかかですか?
実質5年分の写真が詰め込まれているので、いつから明確に定まったという感覚はあまりないんです。
ー 作風についてもう少し質問をさせてください。作家にとって作風とはどのような意味をもつと思われますか?作品の個性や作家の個性、作家という存在の固有性についてどのようにお考えですか?また、その作風はチェンジしていくことも良しと考えていますか?
作風や個性は大いに重要だと個人的には考えています。なぜなら作家としてどのように人、モノ、社会と向き合っているか、何をどういう風に美しい、かっこいい、嬉しいなど様々なパターンがありますが、人間性の多くがその「感じ方」に宿っていると思うからです。作風=人間、考え方なので変わっていくことが当然であり、そうあるべきだとも思っています
ー フィルムで撮影、スキャン、最終的にはデジタルで作品を完成させているそうですが、そのようなプロセスを経て作品をつくるようになったきっかけを教えてください。
デジタルカメラと、それに合わせた編集をすれば、もっとラクにことは進むのではと個人的には思っています。ただもともと手作業をするのが好きで、つくっているという感覚を味わいたいがためにこのプロセスを踏んでいます。暗室、焼き付けなどまで着手できれば本当はもっと良いのですが、費用と時間の制約で遂行できないため、現状はこのスタイルというだけです。これからも変化していくつもりです。
ー そのようなプロセスで作品を制作する理由を教えてください。
自分の感性として”発見”こそ、感動のフックとなっています。撮るとき、フィルムをスキャンをするとき、感光したフィルムを拡大したときなど、それぞれで自身を感動させることがただ単純に楽しいのだと思います。
ー 井崎さんの写真には、物体、色、かたちの「採集」が大きく関係しているそうですが、それについて少しく詳しく教えていただけますか?
シンプルにいうと物体、色、かたちをコレクションしたい、所持したいという思いが背景にあります。人がガラスケースに入ったフィギュアや蝶の標本を愛でることと同じような感覚です。いずれ僕も歳をとって思うように身体が動かなくなる日が来るはずで、その時に眺めるたくさんの採集成果に喜びを感じて幸せな気分になるはずです。
ー それらに関係するのかもしれませんが、さきほど「非日常的な写真を無意識に集めるようになった」とおっしゃっていましたが、物体、色、かたちの「採集」に興味をもったきっかけを教えてください。
具体的なきっかけがあったかということはあまり覚えていません。幼少からの成り行きのような気がします。カメラを使い続けるうちにいつの間にか興味を持つようになりました。
ー 今回のテラススクエアでの作品について教えてください。
展示はすべて2020年に撮影した写真で構成しました。タイトルの『Sampling』ですが、文字通り物体、色、かたちのサンプリングです。それぞれの場所やものからスポイトで要素を採取してきた結果の展示という意味です。全く別々の場所で撮影された写真でありながら、色や角度、あるいは関連の元素を持つもの同士で隣合わせに展開しているものもあります。おそらく今回展示した作品はこの先もずっと続く僕にとってライフワーク的な作品のはじまりになると思っています。
ー オフィスビルのエントランスという少し特殊な空間での展示ですが、展示を構成する上で考えたことを教えてください。
色の要素が強めな作品を多く選んでいます。通りすがりの横目に見た人に『?』が浮かぶこと、興味をもってもらえるように目立ちやすいことも重要だと思いました。
ー これからやってみたいことはどのようなことですか?
印刷物により注力していきたいです。コロナ禍でよりデジタル文化の速度が上がる世の中ですが、自分が憧れていてた先人たちの創作物は手で触れられる、ページをめくるなかにありました。デジタルの海に放出され、深い底に積もってしまうことが怖くもあります。タイムカプセルのように時代に埋めやすいものをつくりたいと思っています。
井崎竜太朗
写真家。1994年福岡生まれ。2016年より東京に拠点を移し写真家として活動。広告、ファッション、音楽などのヴィジュアルを撮影する傍ら、自身の作品制作や展示活動にも注力している。作品集に「Time Machine」(2019)がある。
- テラススクエアフォトエキシビションVol.18「井崎竜太朗 Sampling」
- 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
- 開催日時: 開催中〜2021年5月21日(金) / 8:00~20:00<
- 休館日: 土曜・日曜・祝日 入場無料
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