
90年代からゼロ年代という時代において、雑誌は優れた現代写真をみることができるメディアのひとつであった。僕がホンマさんの写真を初めてみたのは90年代の女性ファッション雑誌だった。翠れんさんにもゼロ年代の雑誌の中で出会った。
ホンマさんと翠れんさんの対談中編は、本対談のタイトルにも引用させていただいた、2005年に刊行されたホンマタカシさんの作品集「アムール 翠れん」と雑誌メディアについてお話を伺います。
<前編はこちら>
「アムール翠れん」、「リラックス」のころ。
ー 今日はホンマさんが撮影した翠れんさんの写真集「アムール 翠れん」(プチグラパブリッシング刊、2005年)を持ってきました。12年前のホンマさんと翠れんさんの作品ですね。
翠れん:うわ〜、あっという間に12年,,,。もうそんなに経つんですね。人生すぐに終わってしまいますね。
ホンマ:ホントだよ。でも、翠れんなんてまだまだでしょう。俺なんてホントに、残り時間って有限だなって日々感じるんだよね。だから嫌な人とはご飯食べたくないし。
ー でもそれに関してはホンマさんは一貫していますよね。
ホンマ:まあそうなんだけど(笑)。前よりも仕事が終わったらさっさと帰るようにしているよ。
翠れん:帰って何をするんですか?
ホンマ:創ることが仕事だから、ほかにやることいっぱいあるじゃん。(「アムール 翠れん」をみながら)でも、この時にとった写真、いまだに海外の人から言われるんだよね。ヨーロッパのフード系の雑誌からも2回くらい言われたことがある。
翠れん:そうなんですね。嬉しいですね。

ー 翠れんさんといえば、「アムール 翠れん」、それと雑誌「リラックス」の印象が僕にはいまだに強いです。ホンマさんと翠れんさんとの出会いはいつだったんですか?
ホンマ:美容室のSHIMAの撮影の時だよね。
翠れん:そうでしたね。高校生の時でした。
ー 当時すでに翠れんさんはモデルをされていたのですか?
翠れん:そうだったかもしれません。当時「ガールズ」というSHIMAが発行していた印刷物があって、表参道で私が女の子たちの写真を撮っているときにホンマさんが、まさに現れて(笑)。それで、私もホンマさんに写真を撮ってもらいました。私がその時撮った写真はまったく覚えていないけど、ホンマさんに三脚を立てた大きなカメラで、鏡越しに撮ってもらった写真のことはいまもよく覚えています。
ー そうだったんですね。
翠れん:無口な写真家だなあと思いました(笑)
ホンマ:そのあとすぐに「リラックス」で写真家の佐内正史が翠れんを撮っていて、俺はそれをみてものすごく可愛いなと思った。バスの中で撮っていた写真かな。
翠れん:光がワーッてあたっている写真でしたね。いま、鮮明に思い出しました。あれは佐内さんが私の学校まで来て撮ってくれました。

ー 翠れんさんもモデルとして登場していた、雑誌「リラックス」のホンマさんの連載「ワナ・リラックス」が好きで毎号みていました。その連載ではホンマさんは翠れんさんを何回くらい撮りましたか?
ホンマ:ワナ・リラックスでは3回くらいかな。
ー 先程のロシアを旅した写真集「アムール翠れん」は本当に大好きで、前半半分くらいは翠れんさんがほとんど登場しませんね。
ホンマ:(ページをめくりながら)ホントだ。なかなか出てこないね。不満(笑)??
ー ファンとしては不満かもしれませんね(笑)
ホンマ:自画自賛になっちゃうけど、いい写真だね、意外と。いまの言い方は荒木さんぽかったかな(笑)。ここに写っているロシア人の女のコとか今なにしてるのかな。
翠れん:私と同じくらいかな。随分前の写真集ですが、私もいまだにこの時の写真について言われます。


ノスタルジックな国へのロード・ムーヴィ
ー でも、翠れんさんにとっても、アイドルの写真集ではないですが、このような本って珍しかったんじゃないですか?
ホンマ:ここにはプチグラの伊藤高という編集者が大きく関わっているんだよ。だってこの企画で写真集を作ろうということ自体変わってるし、いまだったら出版するのは難しいかもしれない。当時翠れんは芸能人でもないし、さっき加藤くんが言ったみたいに、本人もそんなに映っていないし。そんな写真集を、しかもハードカバーで出すという。でも感覚としては、今回のensembleでの翠れんと俺の対談記事と同じで、担当編集者が翠れんのことが好きで、俺の写真が好きでということなんだと思うんだ。だからそれが今だったらウェブになるんだよね。
ー そうですね。「アムール 翠れん」という作品を今も好きで大切にしている人は僕のまわりでも多いですよ。ですので、今回テラススクエアでの翠れんさんの写真展開催を喜んでくれた方も多いです。何をするにしても憧れや好きという気持ちは大切ですよね。
ホンマ:今さら?(笑)
ー はい…。翠れんさんはこの時のことを思い出したりしますか?
翠れん:ヨーロッパとは違ってロシアの独特の雰囲気が素敵でした。シベリア鉄道で移動したのですが、電車の中でブランケットにくるまれて眠るのも初めての体験でした。ブランケットもカーテンも可愛らしい花柄で、ホテルとは違って小さな部屋の感じが心地よかったですね。また行ってみたいです。

ー この写真集のなかの海辺のシーンも素敵でしたね。
翠れん:ありがとうございます。一か所今でもよく覚えているのが、砂ではなくて、ガラスや陶器の破片だけで出来た海岸です。それがすごく可愛くて、その時拾った陶器の破片は今も大切に持っています。
ー リュックを背負った翠れんさんが登場する、どこかノスタルジックなロシアという国へのロード・ムーヴィのような、移動がテーマの写真集だと思いますが、このときホンマさんはどんなカメラを使って撮影されたのですか?
ホンマ:ほら、ここにも写っているけど、ライカM3でも撮っている。

ー シベリア鉄道のなかで撮った写真だと思いますが、ホンマさんの映り込み方も含めてものすごく粋な写真ですね。
ホンマ:ほかにも4×5やいろんなカメラで撮っているよ。でも写真をみてもあまり区別がつかないね。
翠れん:写真をみて、ホンマさんはどれがどのカメラで撮ったってわかりますか?
ホンマ:もちろん分かるけど、印刷物の粒子感でみるとあまり差が分からないね。翠れんはいまもニコンのフィルムのカメラ?
翠れん:ニコンも使っていますけど、知人に譲ってもらったライカも使っています。最初は使いにくかったのですが、撮り始めたらライカのフィルムカメラが楽しくて。最近はライカを使うことが多いです。コンパクトフィルムカメラのPENも使っています。「夢路」の中の浮き輪の写真はPENで撮っています。
ホンマ:俺は最近はiPhoneでも撮っている。海外の雑誌にiPhoneだけで撮った写真を載せてもらったこともある。もうiPhoneだけでいいんじゃないかな(笑)。
いよいよ最終章となる後編では、写真からみえてくる「今」という時代について、そして女性として写真を撮るということをめぐるお話をお伝えします。
<後編に続く>

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