食とワインのいい関係
料理家、植松良枝さん
2017.11.02

植松良枝さんインタビュー

雑誌やテレビなどメディアでレシピをつくり紹介するなど、幅広い世代に大人気の料理家の植松良枝さん。13年前に独立してからは、神奈川県伊勢原市の菜園で野菜作りもしている。料理だけでなく、食の根源に触れるようなその活動を、生き方や暮らし方の参考にしている方も多いのではないだろうか?そんな植松さんが、11月10日にテラススクエアでおこなわれるワインと食のイベント「ensemble」の料理を担当する。著書や料理教室イベントなどで、旬を大切にした食のあり方も伝える植松さんに、その食への向き合い方について植松さんのアトリエで話をうかがった。

ー 植松さんのお料理のベースにあるものを教えてください。

さまざまな国の料理をご紹介することも多いのですが、ベースは日本の四季のお料理、和食です。四季の旬の食材を使って料理したいといつも思っています。

ー 旬の食材を使うことはなぜ良いのかあらためて教えてください。

旬の食材は一番栄養価が高く、お値段も安いといいところづくしなんです。旬でない野菜は味が薄かったり、高かったり、ほとんどいいところがないんですよ。旬の食材で季節を感じることができれば、気持ちも豊かになりますよね。それと本当は自分が食べている食材は、近くで採れていることが一番の理想ですね。そうすれば食べているものに対して愛着が湧くと思います。

ー 毎日お忙しいと思いますが、日々どのように過ごされていますか?

食材を日々追いかけています(笑)。それだけで忙しくて。最近ですと、夏の終わりなら、ゴーヤと茄子ばかりを追いかけて食べていました。無理して手に入れたものを食べるより、身近に手に入りやすい旬の食材を食べ飽きるまで食べて、また来年食べさせてね!という感じのほうが楽しくないですか?

ー 生き生きとしていて無理のない感じがいいですね。そうすることでどのような気付きがありますか?

魚ひとつとっても、今年痩せているなあとか、店頭に並ぶのが今年は少し遅いなあとか、味の変化だけでなく、環境の変化にも素材から気づくようになります。畑をやっていると特に分かるのですが、今年は雨が多いとか気温が低いとか、そんな気候のことまで野菜からわかるんですよ。

ー それってとても豊かなことですね。ご自身で畑をやることの理由を教えてください。

ものすごく単純なことなのですが、自分が食べている野菜がどうやって作られているか分からないというのも不思議だと思うんです。出はじめと、終わりころでは味も全然違うんですよ。だから料理方法も変えて、違った味付けで味わう楽しみもあります。そんなことを知っているだけで、とても豊かになることができると思います。

ー 日々の暮らしの中で旬を意識をするヒントを教えてください。

店頭で一番わかりやすい場所に置いてあるものが旬の食材です。だからそんなところにも意識的に、八百屋さんや魚屋さんに行っていただくだけでもいいと思います。それを自分でメモしておけば、自分の暦ノートができます。私も暦の本を出版していて、自分の本に書き込んだりしています。

ー それはいいですね。

はい。当たり前ですが、暦って自然の観察記録なんですよ。ご存知のとおり東西に長い日本では、北海道と九州でも旬の時期ってずいぶんと違います。だから自分にとって必要な情報を、自分のために書き替えていくだけでも楽しいと思います。特に和食はそれが理にかなっています。土用といえば夏がよくいわれますが、日本には立春、立夏、立秋、立冬の前に四度、土用の日があります。その前の18日間が土用の日で、この時期になるべく旬のものを食べて胃をいたわっておくと、次の季節をすこやかに迎えられると昔の人はいっていました。それとこの時期は、大きな動きはせずに地に足をつけるタイミングで、内省的に過ごすといいと信じられていました。土用の時期というのは、季節が極まっている時で、旬の野菜が買いやすい価格で店頭に出揃っています。旬の食の集大成を味わうことができるタイミングでもあるんですよ。

ー 今回ensembleでお料理を作っていただきますが、11月10日のこのタイミングには、どんなお料理を楽しませていただく予定でしょうか?

まさに立冬のころ。冬の気配もしつつ、極まっていく時期ですね。ensembleでは、この時期に収穫される晩秋から初冬の食材をふんだんに使った料理をいま考えているところです。葡萄が収穫される時期でワインの解禁日の頃ですし、洋物の旬を取り入れても面白いかもしれませんね。オリーブオイルも秋にはヌオヴォといって、ノンフィルターで無濾過で鮮やかな緑色をした新物が空輸で輸入される時期です。この時期は世界中のいたるところで収穫祭が行われています。
それとセイズファームがある氷見の食材も旬の食材と組み合わせて使う予定です。楽しみにしてください。

ー それは当日楽しめるセイズファームのワインとともに楽しみですね!

それと今回のensembleではとにかく旬のワインを楽しんでいただきたいですね。以前、秋が深まるこの時期に、美食の街として知られるスペインのサン・セバスチャンに行ったことがあります。そこで食べたフルーツや木の子を使ったお料理も考えています。秋のサン・セバスチャンはとにかく木の子が豊富で、豆も出来始め、とても豊かな味わいのお料理で盛りだくさんです。

ー セイズファームや富山の印象を教えてください。

最近行ったのは春先だったのですが、海も近く丘の上にワイナリーがあって、サン・セバスチャンに似た素晴らしいところという印象をあらためて持ちました。氷見は食材に恵まれた豊かな地ですよね。潮風も強く決してワイン作りに最適な地だというわけではないと思うのですが、それはサン・セバスチャンも同じです。でもその土地ならではのものもあって、微発泡のチャコリというワインが地酒であったり。アルバリーニョという白ブドウ品種の栽培もさかんな地です。

ー 神田錦町のURBAN VINEYARDの試みについてはいかがですか?

先日ビルの上のブドウ畑を拝見しました。まだまだ小さな葡萄の樹でしたが、都会のビルの屋上に、本格的な葡萄畑があるのはすごいですね。数年後に予定されている収穫時期が楽しみなプロジェクトだと思いました。そこで働いているみなさんが葡萄の樹があることで繋がって、街が一体になり、神田錦町がそういったカルチャーの発信拠点になることが出来たら素敵だと思いました。

写真と文=加藤孝司
  • 神田錦町テラススクエアで楽しむ、一夜限りのワインイベント
    ensemble – urban vineyard kanda-nishikicho –
  • 場所:テラススクエア 2F テラステーブル内「土ノ日 青二才」
  • 東京都千代田区神田錦町 3-22  
  • イベント日時:2017年11 月 10 日(金)
  • 時間:18:00~21:00
  • 参加費:3,000 円【ワイン・フードチケット込】 ※ チケット購入方法:当日会場にてお求めください。
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