爽やかな感性がつむぐシティミュージック
2018.4.12

昨年暮れに発表になったデビューアルバム「2兆円」で音楽好きから注目を集める東郷清丸さん。一度その音楽と声を聴いたらハマる人続出と巷では話題のアーティストだ。初夏にはこのJournalにも以前ご登場いただいたアーティストのコトリンゴさんも参加する屋外フェスにも参加。ますますその活動が注目される27歳のアーティスト東郷清丸さんのインタビュー後編は、その音楽活動、清丸さんが所属するデザイン会社「Allright」との関係などさらに深くお話を伺います。

衝撃のアルバム「2兆円」誕生秘話

ー いま清丸さんは、AllrightのなかのAllright Musicの所属アーティストで、Allright Printingのスタッフでもあるわけですが、一日をどのように過ごしているか教えてください。

活版印刷のオーダーを受けて、見積りを出し、紙を提案し、印刷をして、メールをして、ライブのオファーの返事をして、日によってはそのままライブをしにいくというのが僕の一日の流れです。

ー 清丸さんご自身、印刷の技術をお持ちですが、アルバムのジャケットのデザインもですが、東郷清丸の不定期刊行物である「キヨタイム」もめちゃくちゃ面白いですね。

これは東郷清丸の広報誌なのですが、表紙の版画が僕もすごく好きで、これはデザインや印刷の仕事の方でもお世話になっている江東区の篠原紙工さんの営業さんが描いています。版画が得意な方で写真を元に版画を作画してくださっています。このアートディレクションも唯さんです。Allrightの今までの仕事の御縁で実現しているものです。

東郷清丸氏インタヴュー

ー 自分たちで頭からアウトプットまで一気通貫なものづくりが出来ているところがいいですね。

はい。そういった意味では全部社内で出来るので、ものづくりが早いですね。

ー 作曲やデモは自宅で制作されているそうですが、アルバムはどのようにつくったのでしょうか?

前々からライブで共演したりして気になっていたミュージシャンの方々に、デモテープをお送りしてお願いしました。

東郷清丸氏インタヴュー

ー アルバムタイトルとしてとてもインパクトのある「2兆円」というタイトルはどのように思いついたのですか?

ふたつあって、ひとつは「自分でこのアルバムに値段や価値をつけるなら2兆円」というものです。そこには価値ってなんなんだろうということへの問いかけや、人が手をかけてつくったものって、それくらいの価値があるんじゃないかと普段から思っていたのでそうつけました。もうひとつはこのアルバムのジャケット写真を撮りに南の島に行ったときのことです。実はこのジャケット写真は、撮影の前の日に民宿でみんなで服や髪型、撮影のチェックをしている時にたまたま撮ったもので、それがすごく良くて、その場で決定ということになりました。その写真を唯さんがイラストレーターに取り込んで、「東郷清丸」、そして文字の絵面だけで「2兆円」とレイアウトをしました。唯さん自身はそのことに深い意味はないと言っていたのですが、そんな感じでこのタイトルは決まっていきました。まさに言葉ありき、言葉の響きありきでした。

「赤いカットソー」というトレードマークについて

ー 「東郷清丸」は本名ですか?

旧姓ですが本名です。デビューする際に芸名みたいなものがあったらアガるなと思ったのですが、清丸を超えるインパクトってほかにないですし、変えてもダサいなと思っていたときに、友人からの助言もありこれに決まりました。

東郷清丸氏インタヴュー

ー それとトレードマークの赤いカットソーですがなぜ赤だったのでしょうか?

子供のころから赤は好きな色だったんです。ですが大人になってアーティスト活動をするまでは特別こだわりはありませんでした。でも唯さんからの「赤ってどう?」という、ジャケット撮影時のアートディレクションの視点からのアドバイスをきっかけに、スラムダンクが好きで、桜木花道の影響でマイケル・ジョーダンが好きだったこと、好んで赤を着ていた幼少時代のことを思い出して、赤を着るようになりました。

ー ジャケット写真の赤いTシャツって、闘牛じゃありませんがぐっとふところに飛び込んでみたくなるインパクトがありますよね。

アンパンマンもピカチュウもドラえもんも、くまモンもどこかに赤が入っているのは、視覚的な意味合いもあると聞きました。

東郷清丸氏インタヴュー

ー 音楽はもちろんとても魅力的なのですが、東郷清丸を巡るアートディレクションでつくられたイメージの総体としての「東郷清丸」にも惹きつけられます。それは紛れもなくデザインの力だなあと思いました。

音楽を聴くのは最後のゴールで、アルバムを手にとってもらったり、itunesで選んで聴いてもらうためには、そのための入口を整えておくことも重要だと思っています。今の時代、人々の趣味や興味は多様化していますし、ツイッターとかで「音源をアップしたから聴いてください」とつぶやいただけでは誰も聴いてくれません。音楽を聴いてもらうためにも、僕がどういう人間なのかをビジュアルも含めていろんな表現で伝えていく必要があると考えています。もちろん最終的には音楽を聴いてもらいたいので、そのために出来ることはしっかりやりたいと思っています。

東郷清丸氏インタヴュー

ー 今後の予定を教えてください。

ファーストアルバムの発表からそろそろ半年経ち、期待はしていたのですがこれだけ広がっていくとは、想像はしていないところもありました。これから更に曲をつくって、年内にまた何かをつくりたいと思っています。

ー この半年の間にもライブや、ファーストアルバムがASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんが創設したポップミュージックの新人賞「Apple Vinegar Award」にノミネートされたり、いろいろありましたね。

本当にありがたいことです。ライブ以外にも、1月にはクラスカ夜フリマへの出店、2月には渋谷の本屋さんSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERSでもイベントをさせていただきました。どちらも普通に音楽活動をしているだけでは到達できないことだと思うので、これからもそういうことがどんどん起きていって欲しいですね。

東郷清丸氏インタヴュー

ー 音楽の楽しみ方はレコードやカセットといったものだけでなく、データ配信やストリーミングなどそのメディアは多様化しています。先程のフリマや本屋さんでのポップアップショップもそうですが、清丸さんには良質な音楽との出合いの場所を積極的に創出していただきたいですね。

僕が出来るのは音楽ですが、音楽を起点にいろんなことができたらと思っています。

東郷清丸氏インタヴュー

ー 「ensemble」が情報発信をしている神田錦町でも音楽イベントを開催しているので、こちらにもぜひ出演してください。

それはもうぜひお願いします!

ー 最後の質問になります。清丸さんにとって音楽とはなんでしょうか?

僕にとって日常のすべてが音楽です。換気扇の音、鳥のさえずり、活版印刷の機械が動く音も、すべて音につながっている気がしています。僕は音楽をつかって人を楽しませたいと思っています。これまで27年間生きてきましたが、面白い音を出すために生きている、アーティスト活動を始めた今ではそんな風に思えるように人生が変わってきました。作品を出すことで音楽を通じて何かを伝えるという自覚がでてきたのかもしれませんね。

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