渡辺有二さん、清永洋さん対談。
空気をやわらかかくしてくれる写真
2018.5.21

テラススクエアフォトエキシビション7にご登場いただいた清永洋さんの作品が、このたび九段南にある東京堂ゲストルームに設営されました。東京堂は明治23年創業の神田神保町すずらん通りに書店を構えるこの街の老舗。平成24年にリニューアルした東京堂書店神田神保町店は、カフェも併設するなど常に新しい取り組みをしています。まさにその作品が撮影された場所である、皇居前広場を見下ろすことができるビルの高層階にある空間で、東京堂営業部長の渡辺有ニさんと、清永洋さんにお話を伺いました。

ー どのようなきっかけで清永さんの作品を展示することになったのですか?

渡辺:この場所をつくるときに、空間をしつらえてくださった五割一分さんに、ちようどよい作品がありますとご提案していただいたのがきっかけです。お話を伺ったところ、皇居前広場の松を撮影された作品だということで、まさにこの大きな窓から見える景色でしたのでとても興味をもって、テラススクエアに見に行きました。

ー そうだったんですね。実際にご覧になっていかがでしたか?

渡辺:素晴らしかったです。それでとりあえず内覧会の際にご来場いただいた方に見ていただきましょうという、五割一分の三浦さんのご提案もあり早速設置させていただきました。みなさん清永さんの作品の奥深さに見入っていらしゃいましたので、これはと思い正式に4点購入させていただきました。

ー 清永さんは実際に展示されているのをご覧になっていかがですか?

清永:普段ギャラリーのような場所展示されることが多く、これだけ広い空間に置かれること自体あまりなくて、作品を引っ張り上げていただいている感じがしますね。

渡辺:いえいえ、おかげで空間が引き締まりました。

清永:壁の色とも合っていますね。こんなみえ方がするんだと自分でも驚いています。写真が浮き上がってみえていいですね。環境によってみえ方が変わるのは楽しいです。

渡辺:最初拝見した時に、皇居の松であるとご紹介いただいて、私どもとしても清永さんの作品に御縁を感じました。作品がもつ陰影がこの部屋にも合うと思いました。絵画でなく写真作品というのもいいですね。

ー 誰もが知っている皇居の松を写真作品にしたのはもしかしたら初なのではないでしょうか。しかもその松を見下ろすことができる場所に展示されて、作品が里帰りしたような感じですね。

渡辺:本当ですね。今度説明に使わせていただきます(笑)。ちなみにどのあたりの松ですか?

清永:ちょうど皇居前広場のあたりの松になります。被写体そのものが見えている場所での写真作品の展示というのも珍しいのではないでしょうか。

ー あらためて作品にこめた思いを教えてください

清永:松もそうですが皇居の場所自体にひかれました。皇居は人がつくった人工の土地ですが、そこで感じる清々しさや不思議な力はまるで聖地のようです。僕は聖地には二種類あると思っていて、ひとつは巨石や巨樹が祀られているような、元々の土地が不思議な力を持っているような場所と、もうひとつが伊勢神宮のように祈りの場として人が自分達で作り出したような場所だと思っているのですが、皇居前広場はまさに後者で、僕はそのような浄化された場の空気が好きでよく撮影しています。皇居の松は、芝を海の浜辺に見立てたその上に植えられたそうなんですね。人が設計した場所にある意図をもって置かれた松とその場の空気は、特に人がいなくなった夜にある種の神聖さを際立たせるような気がして、それを写しとりたくて撮影していました。

渡辺:すべて夜に撮影したものなのですね。

清永:はい。大判のカメラで三脚を立てて長時間露光で撮影しました。街の光と街灯の灯りの影響で、純粋な自然とも違う、生の自然と人工物のちょうど間くらいにある、人がつくった自然の感じというものが写っていると思います。

渡辺:松自体に不思議な陰影があるのは、大手町のビルの灯りや街灯だったりするんですね。すごく深みがあって、絵画のようにも感じる魅力的な作品です。この場所はお客様をおもてなしする場所なのですが、アートがあることで空間としても落ち着きますし、会話もやわらかくなるのではないかと思っています。このたびは五割一分さんにとてもいい御縁をいただいたと思っています。

ー 私たちはテラススクエアで「テラススクエアフォトエキシビション」という写真展を企画しているのですが、いつも意識しているのが、単にロビーにアートを飾るだけではなく、その場所に展示したときに、それを見てくださる方にどのような影響を及ぼすことができるかを考えて展示をしています。

渡辺:私たちもそう思います。テナントさんと打ち合わせをさせていただくときにもこの作品があることで気持ちがやわらかくなったり、この松はこの窓から見えるあの場所のものなんですよとお話をするとみなさん感心してくださいます。神田に店を営まさせていただいている私どもにとっても今回、神田というチームワークでこのような取り組みができたことも嬉しく思っています。

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