世界と日本をつなぐ
グリッチのスペシャリティコーヒー
2018.4.24

神田に佇む小さなコーヒーショップ、GLITCH COFFEE & ROASTERSは、朝7時30にオープンする。店内には外国人旅行者と、近隣のオフィスに勤めている人々が絶え間なく出入りし、バリスタと楽しそうにおしゃべりしている。まるで海外にあるコーヒーショップのような親しげな様子に、きっと誰もがくつろいでしまうはず。

グリッチは、バリスタ世界チャンピオンとして著名なPaul Bassett 氏の下で修行を積んだ鈴木清和さんが、独立して仲間たちと立ち上げた店だ。

「この春でオープンしてから3年になります。最初はなかなか大変でしたが、コーヒー好きの人たちの間では、だいぶ認知されてきたなと実感していますね。510には、赤坂に新店GLITCH COFFEE BREWED@9hをオープンします」

初めてここのコーヒーを飲む人は、少し驚くかもしれない。普段、見慣れているコーヒーとは違、口に含むとすっきり、苦味がなくフルーティな味わい。

「スペシャリティコーヒーの世界では、こういった味が主流です。僕たちからしたら、ブレンドの深煎りのコーヒーはもったいないんです。シングルオリジンを浅く煎るほうが、産地ごとの味の違いや、農園ごとの繊細な違いまでわかる。食の世界でも、今は生産者ごとの味にこだわるレベルになってきていますよね。コーヒーも同じなんです。農園ごとの豆の育て方や農園主の考え方まで、コーヒーの味に出る。それが飲む人に伝われば、一生懸命取り組んでくれている農園にも還元できるんです。10年後には、日本でも普通にこういったコーヒーが主流になっていると思います」

コーヒーの世界にも流行があり、数年前に話題になった”サードウェーブ”は、豆の選別から焙煎方法までのトレーサビリティにこだわり、シングルオリジンをハンドドリップで淹れることをよしとするムーブメントだった。その波がひと段落した今、コーヒーはより深くこだわりを追求するようになっている。グリッチでは、焙煎の温度や抽出方法などについて世界中からデータを集め、パソコンで管理し、いちばんおいしくなる方法を厳密にルール化している。そこまで突き詰めているからこその味わいなのだ。

そんな世界最先端のコーヒーショップが、神田の街を選んだのはなぜ?

「神田という街は、すごく面白い。皇居も近いし、海外の観光客が訪れやすい場所。でも海外の影響を受けず、日本独特の文化が発展している。喫茶店文化とか古本屋街とか、ものすごい格好いいですよね。一見さんには入りにくいハードルの高さもいい。もちろん、渋谷や新宿といった場所のほうが、お客さんは多いかもしれませんが、わざわざグリッチのコーヒーを飲みにきてくれるということを大事にしたいんです」

同じ500円のコーヒーでも、豆の産地から抽出方法までこだわって淹れている世界基準の店のものと、大手チェーン店のものとは価値が違う。対面で買うことで、その価値は伝わりやすくなる。鈴木さんはそんなところも、神田の魅力だと言う。

「神田という街は、古くからの商店が多く、もともと人の顔が見えるそういう販売方法を大事にしている街ですよね。だからグリッチを神田につくったことは正解でした」

とはいえ、喫茶店文化の根付く神田で、コーヒーといえば、苦くて濃いもの。薄いとかコクがないとかとか、最初はクレームも多かったという。

「グリッチの認知は、海外でのほうが早かったかもしれません。海外からバリスタやコーヒー好きがわざわざグリッチを目指して来てくれる。それを聞いた日本のコーヒー好きの人も来てくれるようになって、だんだんと定着してきました。実は日本はバリスタの世界で、すごく優秀。何人もチャンピオンが出ているので、世界中から注目が集まっているんです。喫茶店文化があるからハンドドリップが根付いているし、日本人の丁寧さや、味覚の繊細さは、コーヒーの表現方法を広げてくれます

そんな鈴木さんが今後、目指していることを聞いてみた。

「僕はコーヒーが好きで、その楽しみをもっともっと突き詰めたい。豆そのものが持つおいしさを引き出すためには、日本で当たり前とされている苦味はマイナスのテイストなんです。でも、日本特有の喫茶店文化は、スタイルとしてすごく格好いいと思っています。なぜか店内にトーテムポールがあったり、スパゲッティが食べられたり。すごく自由で個性的ですよね。コーヒーのおいしさを突き詰めることで、国の垣根を越えて世界の入り口になれる。かつ、喫茶店文化のような日本のスタイルを表現できたら最高。僕が目指しているのは、そういう店なのかもしれません」

グリッチのスタッフはみんな、神田の街が大好きなのだそう。

「せっかく来てくれた人たちのためにも、皇居までの間に何かお店が増えたり、海外からグリッチに来てくれた人が古本屋さんに寄ったり、そういうルートができたら楽しいですね」

そんなグリッチが、コーヒーカルチャーと神田の街を盛り上げようと主催しているのが、コーヒーコレクションというイベント。6回目となる2018年春は、4月28~29日に開催予定。

グリッチを始めとしたこだわりのコーヒーショップの最先端の味が楽しめるうえ、トークイベントなどもあるから、ぜひ足を運んでみて。

文=藤井志織、 写真=加藤孝司

  • GLITCH COFFEE & ROASTERS グリッチ コーヒー&ロースターズ
  • 住所: 東京都千代田区神田錦町3-16香村ビル1F
  • TEL: 03-5244-5458
  • 営業時間:平日 7:30 – 20:00、 土日 9:00 – 19:00
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