建築探訪 #2
2017.3.07

「旧相互無尽会社」

神田さくら通り沿いの角地にひっそりと佇む味わい深いタイル壁のビルが以前から気になっていた。
このビルは建築好きには旧相互無尽会社として知られる1930年(昭和5年)竣工の建築である。この頃は大正12年におこった関東大震災の復興期にあたり、耐震の目的もあり、このような洋風の復興建築が都心部を中心に多く建てられた。実際この地域も復興計画で整備された都内を東西にのびる靖国通りに近く、浅草や江東とならび被災した神田地区に位置する。
印象的なのは、なんといっても当時流行していたスクラッチタイルと、テラコッタのある外観。スクラッチタイルとは、キズのような模様を施したタイルのことで、かの名建築家フランク・ロイド・ライトが帝国ホテルで使用したことで人気マテリアルとなったもの。この帝国ホテルは関東大震災においても倒壊しなかった堅牢な建築としても知られている。
施工は東京中央電信局なども手がけ戦前を中心に活躍した安藤組。復興期に建てられた鉄筋コンクリート造の不燃建築のひとつである。
今の規模にしてみればコンパクトな建築でありながら、一階部分の4連アーチ窓、三階窓の下の張り出しなど見どころも多い。そして一階には控えめな入り口が二つ。さらに今は壁で埋められてしまったが、さくら通り沿いにも間口の狭い入り口があった。ちなみに、並びにはキテレツ建築として有名な東洋キネマもあった、戦前を中心に賑わったエリアでもある。
周辺には大きなビルが建ち並び、特徴的なテラコッタも一部撤去されてはいるものの、今なお歴史ある佇まいを残している。紆余曲折ありながらも今も凛として街角に立ち続ける、いつまでもそこに在り続けて欲しい小さな名建築である。

  • 旧相互無尽会社
  • 千代田区神田神保町2-19
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