ナインアワーズ赤坂がオープン。
街なみにステイする。
2018.5.09

僕がはじめてナインアワーズを体験したのが、2009年8月19日から21日まで六本木のAXIS GALLERYで開催された「ナインアワーズ展ー都市における新しい宿泊のカタチ」展だった。
その展示では、一日のうちの9時間をいかに快適に、クリエイティヴに過ごすかが、大きなプロダクトデザインともいえる、実際のカプセルユニットとともに提示された。

9時間とはホテルにチェックインしてからチェックアウトをするまでの時間であり、都市における一日の締めくくりを「眠り」を通じてリセット、リフレッシュする時間である。チェックインしてから「汗を洗い流す」ことに1時間、「眠る」ことに7時間、そして朝目覚めてからチェックアウトするまでの「身支度」に1時間の計9時間=9h nine hours。

5月10日にオープンする「ナインアワーズ赤坂」があるのは、都内有数の繁華街を擁し、坂の多い街としても知られる赤坂。このホテルもそんな赤坂の街なみから、ゆるやかな坂道をのぼる途中にある。

カプセルホテルといえば1979年に建築家の黒川紀章氏のデザインにより生まれたもの。都市における宿泊施設として、当初からのビジネスマンや、最近では物珍しさ経済性の面から海外からの旅行者を中心に見直され、このナインアワーズの登場により、都市にあける新しいステイ、そしてリラックス&リフレッシュの場として再注目されている。
クリエイティブディレクション、プロダクトデザイン、カプセルのデザインはプロダクトデザイナーである柴田文江さん。そして館内のサインやグラフィックはグラフィックデザイナーで空間デザイナーでもある廣村正彰さん。建築は生態系につながる「からまりしろ」という建築概念で知られる精鋭的な建築家である平田晃久さん。平田さんは今年3月に開業した「ナインアワーズ竹橋」に続き2事例目だ。

建築は地上四階地下一階の地上階はガラス張りの開放感のあるしつらえ。ガラスのボックスをランダムに積み重ねたような建築の中に、4つのカプセルを一つのモジュールにし、それを密度の高い都市における建築のように通路(=街路)の中に配置したフロア構成。それぞれのカプセルの入口を微妙にずらすことでプライバシーも確保。さらにフロアごとに男性女性を分けることで居心地のよい空間を実現している。

ガラス窓(ガラス壁?)からは坂の街赤坂らしい多様な街なみをのぞむことができる。黒を基調にした空間に浮かぶカプセルの中にいると、浮遊感のある非現実な都市的な体験ができる。
決して大きくない敷地と建物に168もの客室を、しかも空間にゆとりを感じさせながらレイアウトしうる建築を設計できる平田さんとナインアワーズのマッチングも見事だと思った。これはカプセルを街なかに散りばめたような平田さんの、都市や街に「からまる」「のりしろ」をつくる建築コンセプトならではのものだろう。

写真にもあるようにカプセル型のユニットは、ゆるやかな曲面を描くなめらかな内壁のデザインも手伝ってか思いのほか広々として感じられる。室内は枕の上のあたりにある黒い帯状の部分にカプセル内における照明などのスイッチ類が機能的に集約されている。館内着やアメニティ類も短い滞在時間を快適に過ごすための工夫と、洗練されたデザイン。シャワーのみや仮眠など短時間の利用も可能なのが嬉しい。

一階にはコーヒーカウンターが。厳選した豆によるシングルオリジンのスペシャリティコーヒーを提供するのが、ensemble magazineにとっても地元の盟友ともいえる「グリッチコーヒー&ロースターズ」。ナインアワーズ赤坂に併設するショップ「GLITCH COFFEE BREWED @ 9h」では、ハンドドリップコーヒーをメインに提供をする。

第一号店となる京都店の開業を皮切りに、今回オープンする「ナインアワーズ赤坂」で7店舗目となる。
2009年に僕がギャラリーでみた「眠るためのカプセル」は、この10年あまりでプロダクトデザインから、建築、街、都市に広がっている。そのコンセプトは都市でのふるまいを豊かに、そしてそこでの生活をさらにアクティブなものにしていくだろう。

写真と文=加藤孝司

  • ナインアワーズ赤坂
  • 住所:東京都港区赤坂4-3-14
  • TEL:03-5545-1565
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