テラススクエアフォトエキシビション
「土の記憶 Reminiscence of Clay」
2017.3.14

テラススクエアフォトエキシビション vol. 4
「土の記憶 Reminiscence of Clay」
写真家・宮濱祐美子インタヴュー

昨年の12月22日までテラススクエアのエントランスロビーで開催された「土の記憶」は、花器と花が写し出された美しい作品で空間を穏やかに彩り好評を博した。土を素材に日常の道具として人の手がつくりだす焼物。そして飾り気のない佇まいでそれを見る人の心に癒しとともに気づきを与えてくれる花という存在。その作品の背景を写真家、宮濱祐美子さんにうかがった。

ー 今回、神田錦町で展示をされてみていかがでしたか?

神田は個人的に好きな場所なので、東京らしい場所で写真の展示が出来たのがとても嬉しいです。それと展示場所となったエントランスがとても広くて、写真をすこし遠目に引きでみることができる環境も嬉しかったですね。それと引いても見ていただけるように、今回大きめに写真を焼くことができたのもいい経験でした。

ー 今回の作品は額装にもこだわっていますね。

今回の作品のテーマとして「土の変化」というものがありました。ですので、自然素材を使った紙にプリントして通常の額装のように、ガラスの反射を通さずに直接写真や、紙の素材感を観ることができるものをつくりたいという思いもありました。

ー 被写体について教えてください。

日本の陶芸家の方が現在つくっているものを撮影しました。益子、伊賀上野、種子島など、その場所の土がそこで暮らし作陶する作家によって、器のかたちに昇華したものです。それに花を重ね合わせて作品をつくっています。特に花と花器を重ね合わせたものは、実際に花器に花を活けた姿ではなく、別の時間を重ねて撮る手法を用いています。1枚の写真の中に時間の積み重ねが写るといいなと思ってこのような手法をとりました。

ー どれも素晴らしく佇まいのよい花器ばかりが並んでいるのですが、どのように選んだのでしょうか?

こられはすべて私が気に入って買い求めたものになります。

ー 自身の持ち物を作品の被写体されたことに何か特別な思いがあったのでしょうか?

今は花器や陶芸作品はガス釜で焼かれるものがほとんどなのですが、今回の作品に写っているもののいくつかは、土でつくった昔ながらの窯で、薪をくべて火を熾しつくったものです。焼物の表面に窯の中で薪の灰と炎がつくる「窯変」による痕跡が残る焼物があるのですが、器が好きになった頃は、そのような特別な表情があるものに惹かれていました。ですが焼物について調べていくと、白磁のような昔からある表面がつるつるとした焼物でも、昔は薪で焼いていて、そういったものは窯の中で灰がかからないように工夫をして焼いていたそうです。焼物を知るうちにそれぞれに個性があって、その背景を知るといろいろな器に興味を持つようになりました。それで今回の写真にもいろいろな作風をもった焼物を選んでいます。

ー 展示の反応はいかがでしたか?

私が写真家であることを知っている友人から、絵画ですか?と言われたことがありました。それはちょっと嬉しかったです。今回の花のシリーズに関しては、みなさんがいわゆる写真と思っているものに対して、いい意味で違和感というか不完全な感じを抱いていただけたらいいなと思ってつくりました。いくつかの作品では花器に花を多重露光で後から重ねているように、あえて違和感を作為的につくりだしています。言葉にはできないけれど、なんか綺麗と思ってみてもらえたら嬉しいですね。

ー 作品の和紙というフォーマットもそうですが、キャンバスに絵を描いているようにも見えますよね。今回の作品制作を通じて、ご自身で気づきのようなものはありましたか?

技術的な面でいうと、今回和紙を貼ることの大変さがわかりました。そんな素材との向き合い方に関しては苦労がありました。今回の作品は通常の印画紙ではなく和紙に写真をプリントして、それを額に貼っているのですが、実は一度全ての作品をやり直しているんです。写真ですと被写体、陶芸家の人にとっては土がそうだと思うのですが、素材との向き合い方というのはどんな仕事でもあるんだなと思いました。和紙で作品をつくってそれを額装することの大変さはあったのですが、写真家として「写真作品」の素材と向き合うことができたのはとてもよかったです。それと本展のオープニングのトークショーのテーマを「人間」と「もの」との関係として「祈り」にしたのですが、この展示をきっかけに、私自身その関係についてさらに向き合いたいと思いました。

ー それはどのようなことですか?。

暮らしにまつわる道具やもの、たとえばお茶碗や湯のみ、神事のときにもちいられるお盆や花器など、ものの成り立ちについて興味が湧いてきて、それについてもっともっと知りたいと思ったんです。日本のものづくりをしている人たちの考え方や生活の仕方について、自分の興味がより深くなった気がします。

ー 今後どのような作品に取り組んでいきたいですか?

今回の花のシリーズは自分にとっても新境地です。さらに継続して取り組んでいきたいと思っています。

  • テラススクエアフォトエキシビションVol.4
    「土の記憶 Reminiscence of Clay」宮濱祐美子
  • 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
  • 開催日時: 2016年10月3日〜12月22日(会期終了)
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