「グラフィカルに見える世界」
岡崎果歩インタビュー  前編
2022.4.25

テラススクエアフォトエキシビション vol.22
岡崎果歩 『心臓』 インタビュー<前編>

テラススクエアフォトエキシビションvol.22では写真家・岡崎果歩の作品を展示中です。岡崎果歩の作品は日常のある一瞬をさりげなくとらえながら、その切り取り方はストーリーを感じさせるものです。
コントラストを抑制した淡い色調の中に、ビビッドな色が迷い込んでおり、フラットなフレームの中で視点が行き来する体験が心地よい。
写真とは映像とは異なり一瞬を封じ込めたものだが、だからこそそこには無数の物語が介在する余地を持っている。それを読み解ける数だけ、作品には別の意味が宿るのだろう。だがそれはその写真自体が規定する訳ではない。そんな軽やかさも写真というメディウムの面白さともいえると思う。写真が持つその本質ともいえるものに対する祝福とも愉悦ともいえるようなものをこれらの作品から感じるのだ。

ー 今回展示されている作品について教えてください。

6年かけて撮影した写真を「なまもの」というタイトルで何度かにわたり発表してきました。そのたびにその時々の矛盾を抱え、作品を発表することを通じてその感情はどこからくるものなのかを模索してきたように思います。
テラススクエアで展示する作品を考えていたある日、家の窓からいつも見ている電線を何気なく写真に撮りました。写真にしたことでそれが心臓のように見えてきました。
もしかすると自分の写真たちは、馴染みのない場所を訪れた時に、世界が平面的でグラフィカルに見えるような、そんな視点で撮っているのではと考えました。
そこには、世界をフラットに見ていたい、という私自身の願いが反映されている気もしています。
情報や知識がないからこそ見えてくるものがある、そんな感覚を頼りに制作した作品たちです。

「心臓」より。

ー 今のお話にあったように、「心臓」という本展のタイトルとコンセプトは、メインイメージとなっている電柱と変圧器の写真が偶然撮れたことで決まり、それを契機にセレクトを見直したり、過去作品への探索などが始まったと思いますが、そう思われた理由と、そこに込められた思いを教えてください。

先ほどお話した「なまもの」というタイトルを最初につけていて、そこを軸に展開した作品を過去に制作して展示していたのですが
どうしても何かに囚われてしまっている感覚というか、何か矛盾を抱えながら作っている状態でした。
でも今回の写真展、そして同名の写真集と、自ら決めたデッドラインがあり、どうしよう…と思っていたところに電線の写真を撮ることができて、目の前がひらけた感覚がありました。
電線が心臓に見えた、この感覚が全てだったのかもと思えて気持ちが明るくなって、それを軸に作品を選んでいきました。

ー 今回展示されている作品の中には、額の中のマットが少し傾いたように額装されているものが何点かあります。そうされた理由を教えてください。

本作は当たり前に存在している物事の概念を取り払って、自分なりに考えること、というのがテーマの一つでした。 ですので作品も額の中心に置くだけではなくて、それぞれの写真に配置を考え、額装してもらいました。

テラススクエア展示風景
photo:Takashi Kato

ー 斜めになっているものもそうでない作品も、岡崎さんの思考のゆらぎを表しているようで興味深いですね。
岡崎さんが写真を表現として意識したのはいつでしょうか?そのきっかけも教えてください。

大学生の時に写真を撮り始めたのですが、その時から表現として意識していた気がします。授業の中で写真を用いて、コンセプトをビジュアル化させるというやり方を教えてもらいました。

ー ーー 普段から興味があるのものは、どのようなもの、どのようなことでしょうか。

漫画が好きです。絵と言葉で表現している唯一無二の存在だと思ってます。
あと最近、改めてaikoさん凄すぎるなと、自分の中で熱いです。曲調が明るいから気づいてなかったのですが、ほぼ全部の歌詞が辛いんですよね…。
楽しい時って、その楽しいことに没頭してるからただただ過ごせると思うんですけど
辛い時ってなんとかそれを消化するために、もがいてもがいて、その結果何かができたりするaikoさんの創作ってすごくピュアな気がして。今まで聴いてこなかったのを取り戻すかのように毎日すごく聴いてます。

「なまもの」より。

ー 写真の分野ではいかがですか?

写真を始めた最初の頃は、特にスナップが好きで梅佳代さん、ヴィヴィアン・マイヤー(Vivian Maier)の作品を見て写真って楽しい!と思うようになりました。
真正面の視点というよりかは、真正面に向かう「前後」が好きです。それは師匠(写真家の奥山由之氏)からの影響も大きいと思います。
あとオランダのアーティストでキュレーターのエリック・ケッセルス(Erik Kessels)の作品も好きで、シンプルなアイデアでユーモアを交えながら制作してる感じに痺れています。

「心臓」より。

ー 今回の作品たちもそうですが、現在、写真を撮る方法は、デジタルカメラ、フィルムカメラ、そしてスマートフォンなどがありますが、岡崎さんはそれぞれをどのように選択していますか?

元々フィルムカメラばかり使用していたので、デジタルにはかなり抵抗がありました。ですが最近はデジタルカメラにもチャレンジしていて、それはそれで楽しんでいます。
使い分けという部分では、一番気持ちいい光の色を出したい時や、肌を綺麗に写したい時には絶対フィルムを使用します。
デジタルに関しては、とにかく数を撮りたい時、撮影環境が暗い時はデジタルカメラが向いているなあと感じます。
普段カメラを持ち歩かないので、日常でとっさに撮りたいと思った時はとりあえずスマートフォンで撮っています。
でもできたら持ち歩き用にいいカメラが欲しいです…。

後編に続く

岡崎果歩 Kaho Okazaki
1993年 岐阜県生まれ。
ロンドン芸術大学卒業後、奥山由之氏に師事。
第21回 1_WALLファイナリスト。
2020年、初の個展「なまもの」を開催した。
https://kahookazaki.com

テキスト=加藤孝司 Takashi Kato

  • テラススクエアフォトエキシビションVol.22 岡崎果歩「心臓」
  • 住所: 千代田区神田錦町3-22 テラススクエア 1F エントランスロビー
  • 開催日時: 2022年2月21日(月)〜2022年5月20日(金)  / 8:00~20:00
  • 休館日: 土曜・日曜・祝日 入場無料
SHARE
top