爽やかな感性がつむぐシティミュージック
2018.4.06

所属する会社から音楽の新レーベルを立ち上げ、その第一弾アーティストとしてデビューした東郷清丸さん。自信に満ち溢れた「2兆円」という奇抜なアルバムタイトルとは裏腹に、清丸さんが奏でる音楽は、美しいメロディ、疾走するサウンドで、古き良き時代のシティポップと、まったく新しい未来の音楽を予見させてくれる。そのデビューアルバムが各方面で話題になり、昨年末からこの春にかけてはソロコンサートツアーや、フェスなどに参加し積極的な活動を展開する。新進気鋭のアーティスト東郷清丸さんの全貌に迫るインタビューをおおくりします。

音楽をはじめたきっかけ

ー 僕が清丸さんの音楽を知ったきっかけは、神田神保町に住んでいる友人にCDを聴かせてもらったことでした。それでとても気に入ってすぐにCDを買わせていただきました。まずは清丸さんが音楽というものを意識したきっかけからを教えてください。

小さなころからカラオケで歌うことが好きで、保育園児のときはリトミックの時間や、音楽に合わせて寒風摩擦をする時間が大好きな子供でした。中学のころ、アジカンやバンプを聴くようになってからは、自分で楽器を持って音楽をやるという方法があるんだと知って、高校に進学してから軽音楽部に入って自分でもバンドを始めました。

ー 音楽活動をするようになったのは高校時代からだったんですね。

そうです。最初は当時好きだったバンドの曲をコピーしたり、次第に入学祝いで買ってもらったMTRでオリジナル曲をつくるようになりました。

東郷清丸氏インタヴュー

ー 清丸さんの音楽的なルーツを教えてください。

子供のころから家ではオリコンに入るような曲をよく聴いていました。先ほどお話した日本のバンド、バンプやアジカン、ランクヘッドなどにはバンドを始めるきっかけをもらいました。今、東郷清丸でやっている音楽に関しては、主に海外からのエッセンスが大きくて、アンノンモータルオーケストラ、ハイエイタス・カイヨーテ、チューンヤーズ、セニヤルビーノス、ジャンルでいえばオルタナティブ、サイケ、ヒップホップ、ネオソウル、ファンク、R&Bがルーツともいえるかもしれません。

ー ポップやロックだけでなく幅広い音楽を聴かれていたのですね。邦楽から洋楽に音楽への興味が広がった経緯を教えてください。

とにかく聴いたことのない音楽に触れることが好きなんです。いつも新鮮な感覚に触れたくてあたらしい音楽を掘っていて、その過程で自然に聴く音楽の幅も広がっていきました。洋楽を意識したという意味では、小学生の時に通っていたプール教室で、体操の時間に流れていた80年代のソウルミュージックも大切な思い出です。当時はなんかいい曲だなあと思っていただけなのですが、最近まであの曲はなんの曲だったんだろうとずっと思っていました。それがつい先日判明したんですよ。

ー それはすごいですね。ちなみに何ていう曲ですか?

デニンス・ウィリアムスの「レッツヒアイットフォーザボーイ」という曲です(笑)

東郷清丸氏インタヴュー

ー 今度聴いてみます。僕は清丸さんの音楽を聴いて、ロック、フュージョン、ソウル、ジャズなどのテイストを感じたのですが、子供の頃から多様な音楽に触れていたことがひとつのきっかけになっているんですね。お話をうかがって、曲によってはソフトな曲調なのにハードロックのAC/DCのリフを感じたり、さまざまな音楽のバックボーンを感じた理由が少しわかりました。

ありがとうございます。ハードなものでいえば、ギターのリフに関してはレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンというバンドのギタリスト、トム・モレロも好きで影響を受けています。

ー 曲はギターでつくるのですか?

ギターも使いますが、まずはひと通り頭の中で完成させてから、パソコンやMTRに打ち込んでつくります。それでイメージと違うところは修正をしながら、ギターなど楽器を使って肉付けをしていきます。

ー 清丸さんの曲には印象的なメロディがたくさんあるのですが、曲をつくるときはメロディ、あるいはリズムのどちらが先に浮かぶのでしょうか?

大抵はリズムが先です。ギターをいじっていてリフのメロディから出来るときもあります。頭の中でつくった構成をアレンジしていく過程でメロディができていくことが多いです。

東郷清丸氏インタヴュー

音楽とグラフィックデザインの不思議な関係

ー 曲もそうですが、清丸さんの作る歌の歌詞に感動する人もたくさんいますが、歌詞はどのようにして書いていますか?

曲が出来てから歌詞を書くことがほとんどです。メロディに合う字数、曲のムードに合う詩の世界観を意識しています。それと生活でのタイムリーな出来事、社会へのメッセージを盛り込みながら書いています。詩は自分の中でも一番謎な部分でもあるのですが(笑)、曲の中でワンフレーズ歌った時点で、次にどんな言葉がでてくるんだろうと、聴いてくれる人に興味をもってもらえる内容の歌詞にはしたいと思っています。

ー それではデビューアルバム「2兆円」について教えてください。ファーストアルバムからいきなり二枚組、総曲数60曲という大作にしたのはなぜでしょうか?

2兆円は僕にとって最初の作品でしたが、このアルバム発表と同時に立ち上げたインディーズレーベル「Allright Music」としても初の作品になります。世の中的にはまったくの無名アーティストとしてのスタートです。ですので、ひとつには、どこか過剰なまでにやらないと誰にも気づいてもらえないと思ったことがあります。

東郷清丸氏インタヴュー

ー これまでに、この数の曲を作曲していたのがすごいですね。

パソコンの中にたくさんのオリジナルトラックがあったんです。もうひとつこれだけのトラックを収めた理由は、僕が務めている会社はグラフィックデザインの会社なのですが、ビジュアルにもフックが沢山あればいいなと思っていて。ジャケットの裏面が曲名で埋め尽くされていたら面白くないですか?

ー 店頭でジャケットをみただけでは、1枚目の曲名が分からないという(笑)

曲が多すぎて。それも見た目を面白くしようとした結果です。

東郷清丸氏インタヴュー

ー 先ほどグラフィックデザイン会社が立ち上げた音楽レーベルというお話がありましたが、ジャケットがまずインパクトがありますよね。

ありがとうございます。

ー 赤いTシャツを着た清丸さんが壁にもたれている写真に、太い文字で「東郷清丸」と「2兆円」のグラフィックが印象的です。アートディレクションはどなたですか?

僕が務めているオールライトグラフィックスの高田唯さんです。僕自身もその会社内で活版印刷工房の職人として勤めていて、唯さんは僕にとって憧れのアートディレクターであり、音楽活動に関しても音楽以外の部分で引っ張っていってもらっています。アーティスト活動は東郷清丸名義でやっていますが、僕一人のプロジェクトというわけではなく、完全にチームでやっています。

ー グラフィックデザインの会社が音楽レーベルを立ち上げるというのも面白いですね。

あまりないと思います。

東郷清丸氏インタヴュー

ー オールライトに所属しながら音楽をやりたいといったのは清丸さんからですか?

はい。Allrightという会社の面白いところだと思うのですが、会社に属したとき、人が会社に合わせるのが普通だけど、Allrightは逆で、会社が人に合わせて変わっていく、そんな会社でありたいと、唯さんも普段から言っていて。Allrightは4人だけの会社なのですが、それぞれが自分の人生をよりよく生きることを本当に大切にしている人たちなんです。以前からみんなは僕が音楽をやることが僕の人生にとっていいことだと思ってくれていて、僕は僕で、音楽で身を立てたいと覚悟を決めたタイミングがあって、ならAllrightの中でやるのが良いんじゃないかと思いついて、僕の方から提案をさせてもらいました。

ー 社内である種、起業ができるという。それはすごいことですね。

それは本当に幸せでしたし、その前例をつくれたことはよかったと思っています。

東郷清丸さんのインタヴュー前編はいかがでしたでしょうか?後編は、東郷清丸さんのデビューアルバム「2兆円」の制作秘話、そして音楽への取り組みについて、更に深く伺っていきます。どうぞご期待ください。

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