
写真家のホンマタカシさんと、写真家、文筆家でテラススクエアフォトエキシビョンVol.6の出品作家である東野翠れんさんは、翠れんさんが18歳の頃に撮影をきっかけに出会ったという。
それ以降、雑誌やホンマさんの作品集「アムール翠れん」などで、たびたびコラボレーションをしてきた。
神田錦町のテラススクエアで行っている写真展「テラススクエアフォトエキシビョン」で翠れんさんの展示が決まり、ぜひ実現させたかったのがホンマさんと翠れんさんの対談だった。
今回、待望のホンマさんと翠れんさんの写真対談をお送りします。前編では、翠れんさんの「夢路」について、作品をつくることについて、テラススクエアの写真展会場で翠れんさんの作品をみながら立ち話トークをお送りします。
写真展「夢路」について
ー お二人が会うのは久し振りですか?
ホンマ:最後に会ったのは「まぁまぁマガジン」(文筆家、編集者の服部みれいさんが不定期に刊行している雑誌。最新号の表紙はホンマさん撮影、モデルは翠れんさん)の撮影の時だよね?
翠れん:そうですね。でもこの前といっても、もう2年以上前ですよね。
ホンマ:でも翠れんは、それくらい会っていなくても、久しぶりという感じがしない人。でも加藤くんとだってそうだよね。テラススクエアフォトエキシビションは翠れんで何回目ですか?
ー 翠れんさんで6回目です。
ホンマ:これまではどんなラインナップ?
ー 一回目がホンマさんのアシスタントもされていた高橋マナミさん、2回目が安彦幸枝さん、加治枝里子さん、宮濱祐美子さん、Yusaku Aokiさん、そして翠れんさん、9月からは清永洋さんが始まります。
ホンマ:そっか。マナミの時に来て以来だね。

ー フォトエキシビションのご説明をさせていただくと、毎回作家さんが決まったら、みなで打ち合わせをして、展示作品の方向性や写真展のタイトルなどを決めていきます。 今回ですと、翠れんさんに作品を見せていただいたなかで出てきた「夢」というキーワードを元に作品を選んでいきました。
ホンマ:それで翠れんはどんな作品を選んだの?
翠れん:展示が決まった段階では何も決まっていなかったのですが、先程加藤さんからお話があったように、最初の打ち合わせには、普段から気に入っている作品は箱にひとまとめにしていたものを持参していきました。 そこでテラススクエアフォトエキシビションを監修されている、三浦哲生さん、森岡督行さん、ensembleの編集長でもある加藤さんに好きなもの、気になるものがあったら教えて欲しいとご相談しました。 そこで森岡さんと加藤さんが何枚か選んでくれて、それを基準にほかにも何枚か選んでいきました。
ホンマ:そうだったんだね。
翠れん:その箱に入っている写真というのが、撮影した場所も時期もバラバラで、昨年撮ったものもあれば、15年前に撮影したものもありました。 そこで加藤さんが「夢っぽいね」とおっしゃってくださって。私自身感覚の赴くままに撮っているところがあって、撮ったあとで見返してみると、そこに写っているものがまさに夢のように思えることもあって、すごくしっくり来たんです。

ー ある特定の一瞬という時間を封じ込めた感じが写真らしいですし、夢に近いなあと思いました。毎回額装もみんなで額装屋さんに一緒にいって、作家さん自身に選んでもらっています。
ホンマ:そうなんだ。
ー この写真展のコンセプトでいえば、テラススクエアフォトエキシビションでは、写真やアートとの偶然の出合いをつくりたいと思っているんです。 美術館やギャラリーのホワイトキューブの中ではなく、普段の何気ない日常の中で気になるものに出合う体験って、きっと大きなものになると思うので。
ホンマ:だったらなおさら、アートとの偶然の出合いをつくりたいんだったら、いまもすごく収まりはいいけど、展示の仕方も含めてまだまだ可能性はあると思う。
ー ぜひホンマさんとも展示をご一緒してみたいです。
ホンマ:俺だったらひとつひとつの壁のパネルと同じくらいの大きさの作品をつくったり、もっと上からドドンと吊るす作品をつくったり。空間全体を暗くすることができれば、スライドを使って映像作品の投影もできると思うけど。
ー いいですね!

母として生きること、表現すること
翠れん:テラススクエアでのホンマさんの展示もみてみたいです。額装は上野毛のスガアートさんで打ち合わせしたのですが、そのときはまだどの作品を展示するかは明確には決まっていなくて…。 フレームと照らし合わせながらその場で決めていきました。
ー そうでしたね。個人的にはベスト・ザ・翠れんさん!というイメージがありましたね。
ホンマ:加藤くんの?ハハハ。それは面白いね。
翠れん:私自身、子どもが生まれて写真と向き合っている時間が少なくなっていたこともあって、今回は自分ひとりではできないことを、みんなでできたことが嬉しいです。 せっかくいただいたご縁でしたので、楽しみながらやりたいと思いました。
ホンマ:この写真展自体、いま取り上げたいと思うものを写真展というかたちで紹介する。その企画自体がいいと思うよ。もっとみんなが見てくれるといいよね。
ー はい。翠れんさんの作品に関しては、額装されたものを見てみたいという思いもありました。
翠れん:今回はじめて自分の写真をフレームしたんです。すごく新鮮でした。
ホンマ:きちんとフレームすれば、また使えるしね。でも翠れんも、子どもが生まれても撮り続けている感じがいいと思う。そういった意味でも写真っていいよね。 普段の暮らしは大変かもしれないけど、写真は撮れるから。女性は特にそうかもしれないけど、長島有里枝(写真家。2017年10月から東京都写真美術館で大規模な個展が開催される)と話していても、結局は時間がないなかでどう表現活動をするかということだから。 それは男の俺たちも同じだけど、女性は少し違うかもしれない。出産もそうだけど、逆に俺はそれが写真のコンセプトにもなりうるから、羨ましいというか、それはそれでいいんじゃないかと思う。 本人にしてみれば日々子どもの世話とかして大変なんだから、男が気軽にそんなこといわないでよという話しかもしれないけど。 今年、木村伊兵衛写真賞をとった(ホンマさんは木村伊兵衛写真賞の審査員もしている)、原美樹子さんという写真家は出産するたびに創作がストップしていたんだけど、結局身の回りを撮っていることが評価されて2016年度の木村伊兵衛写真賞を受賞した。 やっぱりそういう、女性が生きるということと表現することというのが評価される時代になったのは、いいと思う。

翠れん:そうだったんですね。
ホンマ:うん。今回の翠れんの作品も身の回りのものを撮っているのはいいよね。男はこれとは反対に、遠くにある辺境みたいなところに行って、なんか珍しいものを撮ってくるということをいまだにやってるわけじゃん。 その違いってホント面白いよね。でも写真って、なにも遠くまで行かなくて、近くでもいいものって撮れる。そこがホントいいと思う。
ー 翠れんさんはいかがですか?
翠れん:私はただただ撮っているだけですが、自分自身の時間が減っても、撮ることで、エネルギーをもらっているような感覚もあります。
ホンマ:今回出産前の作品もあるの?
翠れん:はい。うすいピンク色の花の写真は、展示の中では一番前の作品で10年以上前のものです。出産後の作品はワンピースの作品、浮き輪など3枚です。

ホンマ:出産後の方が少ないのか。
翠れん:そうですね。出産後の作品はまだあまり確認ができていないかも(笑)。
ー 翠れんさんの作品は、どれもみずみずしさがありますよね。
翠れん:自分ではわかりませんが、変化といえば、出産前は自分の時間が24時間あったけど、出産後は大げさにいえば1時間になったというくらい。 それと好奇心のままにどこまでも歩いていって撮るというよりも、目の前のものを撮るという感じになりました。
ー 翠れんさんは古いフィルムカメラで写真を撮られていますが、デジタルでは撮らないのですか?
翠れん:デジタルも使ってみたいのですが、つい、慣れているフィルムカメラになってしまいます。i-phoneでもよく撮ります。
ホンマ:立ち話もなんだし、続きはお茶でも飲みながらしようか。
東野翠れんさんの写真展「夢路」は、2017年8月31日までテラススクエアで開催中です。中編では、さらに深く写真についてのお話を伺っていきます。どうぞご期待ください。
<中編に続く>

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